第4章 近づく距離
あっと言う間の出来事に、キラは空いた口が塞がらない。
ただ物を浮かせるだけの呪文だと思っていたが、あんな使い方があるとは。
最後に虫を燃やして駆除するというのにも驚いた。
呪文一つとっても、さまざまな側面があることに気づかされ、キラはいつかのように胸が高鳴った。
「It's Fantastic!! you're soooo COOL!!」
浮遊呪文をまだ全然使いこなせないキラは、難なく魔法を操るセブルスに尊敬の念を抱いた。
(そうだ…!セブルスは何でもできるってダモクレスが言ってた…!)
キラは良いことを思いついたと満面の笑みを浮かべた。
セブルスは様子のおかしいキラに眉を寄せる。
「セブルス!お願いがあります」
なんだ、と聞く前に、キラが頭を下げて言った。
「私に、魔法を教えて下さい。あと、魔法薬学も!!!」
(…は?)
セブルスは一瞬呆けたが、すぐに我に返る。
「…お前は、授業中に何をしているんだ」
「いや、そうじゃなくて…呪文学に関しては、補習を。魔法薬学に関しては、予習をしたいんです。もちろん、全部じゃなくて、どうしてもわからないところだけです」
ヒントでもいいからいただけませんか、と上目遣いに見られてセブルスは戸惑った。
エメラルドグリーンの瞳は向上心に燃えていた。
セブルスは大いに迷った。
キラが、幼い頃のリリーに重なるのだ。
何の疑いもなく、自分を尊敬の眼差しで見る、その瞳が。
(そしていずれはコイツも……)
自分から、離れていくのではないか。
そう思ってから、何を考えているんだ、と自分に問うた。
ホグワーツを卒業したら、自分が離れていくのだ。
あのエメラルドグリーンの瞳から。
「セブルス…お願いします」
キラはセブルスの心境を知ってか知らずか、そっと彼の手を取ってもう一度懇願する。
キラの長い黒髪がさらりとセブルスの手の甲を撫でた。
(…コイツは、リリーではない……)
スリザリンの、キラ・ミズキだ。
そう、リリーとは違う。
「……努力しないヤツには教えないからな」
「…はい!!」
嬉しそうにキラは笑って頷いた。