第4章 近づく距離
ホグワーツに入学してから三週間経ったある日の朝食前。
キラは温室に来ていた。
バラは小さな芽を出しており、発育は順調の様子。
あの百合も、葉は落ちることなく生き生きとしている。
しかし、キラには困ったことが起きていた。
ダモクレスの薬草たちに付いた虫をピンセットでつまみ上げ、ジャーに捕獲するという作業をしながら、キラはため息をついた。
頭の中は、昨日上手くいかなかった魔法薬の調合のことだった。
教科書には載っていない魔法薬で、スラグホーンが板書したレシピを見ながら調合したのだが、何が悪かったのか、鍋をかき混ぜていた銀の匙が解けてしまい、調合に失敗してしまったのである。
一体何がいけなかったのか、検討も付かない。
他のペアも鍋に穴を開けたりしており、完成させることはできても加点をもらえるほどの魔法薬を作れた者はいなかった。
祖母のアドバイスばかりに頼っていてはいけない、と思いながらも、どうすればいいのかがわからなかった。
「…いっぱい取れた…」
ジャーの中は虫でいっぱいになった。
これらは薬の材料にもならない虫なので、キラは温室の外へ捨てに行く。
すると、城の方から誰かがやってくるのが見えた。
「…いたのか」
「おはようございます」
早朝にもかかわらず、キチッとボタンを一番上まで留めて、身支度を完璧に整えたセブルスであった。
「水やりですか?」
「いや。虫取りだ」
そう言うセブルスであるが、害虫取りに必須なピンセットなどは手にしていなかった。
どうするのだろう?と思っていたら、セブルスは花壇に向かって杖を構えた。
一体どうするのだろうか。
「ウィンガーディアム・レビオーサ」
浮遊呪文だった。
キラはその呪文にはっとして花壇を見る。
百合についていた虫がふわふわと浮き上がり、一箇所に集められた。
そして、再度杖を振る。
「インセンディオ」
呪文と共に、宙に浮いていた虫たちが一瞬で燃え上がり、灰となった。