第26章 第二部 謀策
脱狼薬の話はどこで誰が聞いているかわからないのでできないからだ。
「――それじゃ、ちゃんと使用結果報告してねー。楽しみに待ってる」
にっこり笑うダモクレスに、キラは深々と頭を下げた。
「無理言ってすみませんでした」
「いーよいーよ。可愛い後輩の頼みだからねー」
セブルスのせいでキラが成績落としても困るしね!と明るく言ってくれる彼に少し心が軽くなる。
「んじゃあ、頑張ってねー」
「はい」
ひらひらと手を振ってダモクレスはノクターン横丁の方へと歩いて行った。
キラは小瓶の在り処を確かめるように懐へ手を伸ばす。
この薬はまだダモクレスが学生だった頃に作られた眠り薬である。
揮発性の高過ぎるこの薬のおかげで、三人仲良く夢の中に旅立ってしまったのは遠い昔…と言っても、たった数年前のことなのだが。
この至極取り扱いの難しい眠り薬を使って、キラはセブルスを無理矢理に眠らせるつもりなのである。
面と向かって杖を振ったところで跳ね返されるのは目に見えているし、こっそりと飲み物や食べ物に睡眠薬を混入させるのは不可能に近かった。
というのも、セブルスはほとんど食事の席に現れないし、座っていてもとても短い滞在時間なのである。
屋敷しもべ妖精に頼むという手も考えたが、もしバレた場合に彼らがどんな仕打ちを受けるのか想像するとそれもできなかった。
そうして思い出したのが、このダモクレスの眠り薬。
使い方を間違えば自分も眠ってしまうのは重々承知の上である。
別に自分が薬を盛ったとバレても良いと思っているのだが、自分ではもうセブルスに扉を開けさせることはできないだろう。
だからピースの協力が必要だと考えたのだが。
彼にどこまで話そうか。
全部話してしまうと完全な共犯になってしまう。
下手すれば退学だ!などと言い兼ねない。
(……やっぱりバレたらマズイかな?)
ついさっきまでバレてもいいから眠らせてしまえと安直に考えていた自分にため息が出る。
(うん、バレたら退学にされそうな気がする)
どうしようか。