第24章 第二部 慟哭
けれど幸い、どこかに出かけているようだった。
暖炉の前のソファにすがるように倒れこむ。
「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ――」
肩で息をしながら、キラは先ほど見た光景を何度も頭の中で繰り返していた。
(セブルスは、まだ…リリーのことが好きなんだ…)
きっと、他のマグルが死んだだけならば、ジェームズ・ポッターが死んだだけならば、彼は何とも思わなかっただろう。
むしろいい気味だと思ったかもしれない。
それだけ大嫌いで、憎んでいたから。
でもリリーは違った。
リリーだけは、違ったのだ――何年経っても。
ただの花である百合を彼女に見立てて愛してきたのだ。
彼女の死はそう簡単に乗り越えられるものではないだろう。
彼の小さな背中が、絶望という黒一色に塗り固められた背中が脳裏にこびりついて離れない。
「私は、どうしたらいいの…?」
時が流れるのを待つしかないのだろうか。
彼の姿を見なかったことにするべきなのか。
暖炉の薪がパチリと爆ぜた。
キラはしばらくずっと揺れる炎を眺めていた。
ゆらゆらと揺らめく灯火の赤はリリーの髪のように見えて、そして爆ぜては立ち消える小さな火の粉が彼女の命のようにも思えた。
花壇の前でうずくまっていた彼はどんな思いでいたのだろう。
(ああ、でも。あの花壇には何もないわけじゃないことを伝えた方がいいのかな)
彼の目にはどう映っただろう。
何もない、土しかないように見える花壇を見れば誰でもショックを受けるに違いない。
あの土の下には球根たちが眠っているのに。
花はまた咲くのだと、彼に教えてあげなくてはいけない気がした。
「――やっぱり、やるしかない」
元気づけるとか、そういうのではないけれど。
そんな差し出がましいことはできないけれど。
絶望の淵から引きずり出す。
昨日の自分の行動に自信が持てなかったキラだったが、ここに来て吹っ切れたのかクスリと笑みを零す。
(そしてその魔法薬学教授の座、明け渡してもらいます)
そうなのだ。
あんなへこたれた男から教授の座を奪ったって全然嬉しくない。
いつも追いかけていた背中はあんなものではなかったのだから。