第24章 第二部 慟哭
ガラスペンを持つ手が震える。
臨床試験が安全じゃないことぐらいわかっていたはずなのに。
「Reparo」
乾いた声で呪文を唱えると、ガラスペンの先端は元通りになる。
セブルスに貰ったこのガラスペンは、もう何度こうやって修復したか数えきれないほど使い込んでいた。
(もっと、もっと勉強しなくちゃ)
早くこの脱狼薬を完成させたい。
そうでなければ、臨床試験に望みをかけてきた被験者たちが報われない。
実験を重ねて結果を出して初めて救われるのだ。
キラはダモクレスの試みに乗ってしまったことを少し後悔していた。
もちろん、薬が実用化すれば多くの人は喜ぶのだがそこに到達するまでの犠牲がキラに重く圧し掛かる。
最初はよくわからないまま、研究者の顔をしてあれこれ考えるダモクレスとセブルス二人の間に入れるのが嬉しかったキラだったが、年を取るにつれ、脱狼薬の研究が進むにつれてわかるようになってしまった。
(薬の開発には必要なことだし。マグルの世界と違って、相当重傷でも治ったりするんだけど)
治るからといって失敗していいわけではない。
(…頑張るしかないんだよね。私はもうこっちの世界で生きていかなきゃならないんだし)
今更マグルの世界には馴染めないのだから。
「はぁ……」
「大きなため息ね。幸せが逃げちゃうわよ」
机に向かったまま項垂れていると、キャリーがキラのそばに来てベッドに腰かけた。
「うーん、どうかな。幸せじゃないから大きなため息をつくんじゃない?」
「ふふ、確かにそうね。それで?」
「それで…?」
「何を悩んでるのか、って聞いてるのよ」
「それは――ちょっと、研究のことで」
「あら。てっきりスネイプ教授のことだと思ってたけど」
「……それもあるけど」
「魔法薬の研究のことならスネイプ教授に相談できるのにね。本人があれじゃあ、どうにもならないわね」
「そう、だね……」
キャリーの言葉に、キラはふと考える。
学生時代にダモクレスとあれこれ討論を交わしていた彼は――今でも、脱狼薬について考えたりしているのだろうか?と。