第24章 第二部 慟哭
ガラスペンを動かしていた手を不意に止めて、目の前に広げた使い慣れた道具入れを眺める。
キラの愛用している調合用の小型ナイフの隣には、石の匙と木の匙が並んでいた。
セブルスとダモクレスが卒業するときにキラにくれたものだ。
それぞれ一度使っただけなのに、石の匙は先端が少し欠け、木の匙は部分的に焦げてしまった。
普通に授業を受けているだけでは用途のない二つの匙。
自分なりに使い途を熟考して調合に使ったのにも関わらず、どちらも危うく駄目にしてしまうところだった。
修理の呪文である程度修復することは可能だが、欠けたり溶けたり、もしくは焼けて大部分を失えばそれもできなくなってしまう。
だから、また失敗して匙が修復不能になるのが怖くて使うことができないでいた。
自分の未熟さにため息をつかずにはいられない。
来年には、あのときの彼らと同じラインに立っているはずだったのに。
(全然だめ。届かない)
人一倍、勉強はやっているつもりだけれど二人に及びもしない。
縮まらない、むしろさらに開いた彼らとの距離。
(天才ってやつなのかな)
天才が努力するのと凡才が努力したのではやっぱり天と地ほど、そう、雲泥の差というアレか。
そんな風に諦めたくなってしまう。
けれどダモクレスが寄越した手紙の中の内容はそれを許してくれない。
セブルスと違ってダモクレスとは彼の卒業後も連絡を取っている。
キラが彼の所属する研究院に来ることを望んでいること、そして――あのトリカブトを使った薬の共同研究者となっているからだ。
(共同って言ったって、私はそんなに役に立ってないんだけどな…)
ダモクレスの手紙には、薬の臨床試験に関する結果が書かれていた。
上手くいかなかった、トリカブトの量が多過ぎたのかも知れない――そんな内容だった。
『量を減らすしかないですね』と、書こうとしてガラスペンをインク壺へ浸けたときだった。
カチンと音を立てて、嫌な感触が指先へ伝わる。
「あぁ……」
心の動揺が伝わったらしい。
壺の底にペン先が当たって割れた。