第23章 第二部 虚無
自分自身、ほぼマグルのくせに。
私はあのリリー・エバンズのようにはいられなかったのだ、とキラは彼女の訃報を――『例のあの人』に立ち向かったという記事を読んで思い知らされた。
まごうことなく彼女は『こちら側』の人間で、じゃあキラという人間は果たしてどちらに属することになるのか。
あちらとこちら…境界線はどこにあるのだろうか。
死喰い人かどうか、それだけで量れるものなのかなどと考えてしまう。
スリザリンに属しているだけで、特にグリフィンドールからは『あちら側』に見られていることもあって、でもそれには違う、と思わないわけではない。
さらにブルーム家が純血主義者を相手に商売をしていたことは事実で、それが例のあの人に繋がっていたとしたら。
あちら側の片棒を担いだことになってしまわないだろうか。
(よくわからなくなってきた…。人を殺したか殺していないか、その手引きをしたかしていないか。それが分かれ目ってことなのかな)
何とも複雑な気持ちで教壇に立つセブルスを見やる。
いつもならば授業に集中していない生徒がいればギロリと睨んでくるのだが、今日はそれさえも無くただひたすらに魔法薬の説明と調合手順の注意事項を口にするだけだ。
「相当疲れてるのね」
ペアを組んでいない、前の席のキャリーがこそこそとキラに話しかけても気づかないようだった。
(疲れてるどころじゃないみたいだけどね…)
調合作業を見回っているようで、全然見ていないのだ。
ただただ酷く不機嫌な顔――いつもよりくっきりとした皺が眉間に刻まれていた――をして歩き回るので、殆どの生徒はいつも通り私語は謹んでいたが。
「私、授業が終わったらもう一度行ってみるよ」
「あなたって本当に物好きね。いくら昔仲良くしてたとはいえ」
アニーもこくこくと頷いていて、キラは曖昧な笑みを浮かべて首を傾げて見せるしかなかった。
自分にも、どうしてこんなに彼が気にかかるのか不思議なのだ。
ただ昔、好きだった人。
過去の人のはずなのに。
彼の背中を追いかけた日々が鮮やかに蘇るのだ。