第23章 第二部 虚無
教壇に立って授業を始めれば、頭が回りだす。
生徒達の視線は好奇と畏怖、そして嫌悪がごちゃまぜになったようなものであったが、全て無視した。
とにかく授業を進めなくては。
ただそれだけを考えた。
いや、考えるようにした。
そうでなければ――失われた命をどうにかして呼び戻す方法はないだろうか、などという愚かで甘美な思考に囚われてしまうだろう。
魔法薬学の授業はいつも以上に皆の意識がピリピリハラハラしていた。
その元凶であるセブルス・スネイプは教師にはあるまじき話しかけるなオーラを身体中から発しており、さらにその風貌は一段と死神に近づいたかのようであった。
(顔色悪っ!!)
バン!と扉を開けて教室に入ってきたスネイプを見て、キラは目を見張る。
もちろん普段から血色のいい彼なんて見たことはないのだが、これは酷い。
そして目の下の隈、こけた頬にガサガサの唇にも色は無い。
連日続いた聴取や証人喚問などの疲れだけでこんなことになるだろうか。
やはりリリーが死んだという事実は彼をこれほどまでに打ちのめしたか、とキラは思った。
(セブルスは――あちら側の人間ではなかった……そういうことなのかな……)
分からない。
けれど、あのときは確かめることができなかった。
確かめようともしなかった。
彼は彼だと思っていたから。
いや、彼は彼だと思いたかったのかもしれない。
でも今は?
(そちらとかあちらとか…そんなの)
関係ないとは言えなくなった自分がいる。
ルシウス・マルフォイとの関わりはずっとあった。
密ではなかったけれど、ブルーム家としてもキラ個人としても、目をかけられてきたという自覚がある。
マルフォイ邸で開かれたパーティーで死喰い人だと報じられた者達と会話はしていないにしても。
どちらかと強く問われれば、あちら側に属すのかもしれない。
純血至上主義なんて掲げはしないけれど、それに反対だと声をあげることはしなかった。