第23章 第二部 虚無
魔法薬学の準備室及びセブルス・スネイプの研究室はそれはそれは見事な荒れ具合だった。
というよりも、自らの手でグチャグチャに荒らしてしまった。
唯一無事なのはうず高く積み上げられた羊皮紙の束…つまりは全学年の自習レポート。
誰かが倒壊防止魔法でもかけているかのようだった。
本当なら今すぐ採点に取り掛からねばならないだろう。
しかし、疲れ切った体とすり減った心はもう動きたくないのだと叫んでいる。
(リリー……)
守れなかった。
命の危険を冒してダンブルドアへ下ったのにも関わらず、ゴドリックの谷に隠れていた彼女の元へ辿り着いたときにはすでに体温は無く。
すぐそばで小さな子どもが額に傷を作って泣き叫んでいたけれど、そんなものは気にならなかった。
一目散にリリーに駆け寄り、抱きしめた。
彼女のエメラルドグリーンの瞳はもう二度と光を灯さない。
もう二度と、自分を見ることはない。
リリーさえ生きていてくれたなら。
(なぜだ……)
シリウス・ブラックの裏切りは到底許せるものではない。
アズカバンに収容されただけでは気が済まないほどに憎んでいる。
その上なぜ、あの男の子どもを守らねばならない?
リリーの子どもはリリー自身ではないのに。
「……っあ゛ぁぁぁぁ――っ!!」
目の前にあるもの全てを壊したくて、両腕でそこら中のものを叩き潰し、なぎ倒す。
両腕はすでに赤く染まっていて、乾いた血がこびりついていた。
ソファに倒れ込んで、その赤を眺めた。
そしてまた杖を振る。
杖を振れば、壊れた物は元に戻る。
元に戻ればまた壊して。
こんなことを昨日戻ってきてから何度繰り返しただろうか。
疲れ果てているにも関わらず休むことができなかった。
瞼を閉じれば彼女の死に顔が迫ってくるのだ。
杖を振っていれば彼女が戻ってくるのであれば、何度でも、何百万回、何億回だって振ってみせよう。
この腕が千切れるほどに力強く。