第23章 第二部 虚無
肌寒い石畳の回廊を抜け、魔法薬学教室のすぐそばにあるスネイプの部屋を訪ねる。
閉ざされた黒い扉を前に、キラはどうしたものかと立ち尽くしていた。
勢い込んで来たものの、何と声をかけるべきか。
考えなしにノックしてもすぐに追い返されることは必須。
何かちょうど良さそうな口実が欲しい。
キラは考えを巡らせ、スラグホーンのときと同じ方法を試みることにした。
コンコンコン、と強めにノックしてしばらくすると「誰だ」と固い声が返ってきた。
「キラ・ミズキです」
「――何の用だ」
開かない扉の向こうで、彼はどんな顔をしているのだろうか。
眉間に皺を寄せて、怒っている?
それとも、さらに目の下の隈を酷くさせて疲れた顔だろうか。
「お帰りになられたとお聞きしました。……大丈夫ですか?」
「用が無いなら――」
「自習中のレポートの採点がたくさん溜まっていると思うのですが。お手伝いいたし」
「必要ない」
スネイプの言葉に重ねてキラが言うと、さらにそれを遮るように拒絶された。
そうなることは予想できていたので食い下がる。
「ですが、大変では?」
「断る」
「もちろん、低学年の分だけです。スラグホーン教授から引き継ぎで聞いておられませんか。私、魔法薬学教師志望で――」
「必要ないと言っている!!」
Go away!!と大声で怒鳴られて、キラはびくりと肩を揺らした。
扉一枚隔てた向こうからでも、スネイプが物凄い剣幕でこちらを睨んでいるだろうことが予想された。
「――気が変わったら、いつでもお手伝いします」
失礼しました、と見えない相手に頭を下げてキラはその扉の前から離れたのだった。