第23章 第二部 虚無
スリザリン寮の朝は暗い。
ハロウィンの翌日からは特に。
これまでマグル生まれであることを理由にひたすら縮こまってきた生徒は多少晴れやかな顔をしていたが、グリフィンドール生のように喜びを爆発させるようなことはなかった。
「おはよう、キラ」
「ピース…おはようございます」
「スネイプ教授、昨日の遅くに戻ってきたみたいだよ」
「えっ!」
談話室の暖炉の前で呼び止められたキラは勢い良くピースを振り返る。
「どんな様子でしたか?!」
思わず前のめりになるキラ。
ピースは苦笑しながら、いつもと同じに見えたと言う。
「いつもと、同じ…」
言葉の意味を探るように繰り返すキラ。
「気になるなら、様子を見に行ってきなよ。授業まで待ちきれないだろ?」
キラ達より一学年上であるピースはホグワーツ内で有名であったジェームズ・ポッターのことも、指名手配されたというシリウス・ブラックのことも知っている。
そのためピースも多少は気にはなっているようであった。
「あの人…スネイプ教授は普段からこう…なんていうのかな陰気くさいっていうか…ね、ほら、剣呑な雰囲気っていうか…。だから違いはよくわからないけど、君ならわかるかも、ね」
確かにそうかも、とキラが小さく笑えばピースも微笑む。
「それに。そっちにばかり気を取られてるのは困るし」
「う……」
確かに。
ピースからすればとんでもないタイミングでの大事件。
キラを振り向かせようといくら頑張っても、誰も彼も『名前を言ってはいけないあの人』が死んだことによって引き起こされている数々の騒動に夢中だ。
特にキラは現在寮監であるセブルス・スネイプと親しくしていたので、証人喚問やらなんやらで出廷しっぱなしで拘束され続けていた彼が気になって仕方なかった。
当然ピースは面白くないだろう。
「すみません…」
キラは申し訳ない気持ちになりながらも、やはり一度は好きになった彼のことが気がかりでそそくさとその場を後にした。