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【HP】月下美人

第23章 第二部 虚無


 スリザリンの談話室には誰もいなかった。

『例のあの人』が死んだ。

 そのニュースは瞬く間に魔法界に広がり、例のあの人側――つまり闇の陣営とされる者も一斉に粛清を受けた。
 その中にはホグワーツの生徒の親も含まれており、中でもスリザリンは一際多く。
 半分とは言わないまでも、多数のスリザリン生は鬱々として退学の宣告を待っている。
 誰も談話室でおしゃべりしようなどという気分にはなれないだろう。
 授業も休講が続き、再開したのは3日経ってからだった。
 しかし、中々再開されない授業が1つ。

「魔法薬学は今日も休講らしいわ」
「きっと裁判が長引いてるのよ…」
「うん……」

 純血主義の多いスリザリン出身者の中には、セブルス・スネイプも含まれていた。
 彼は混血――ハーフブラッドであり、自身に流れるマグルの血を嫌悪する節があった。
 しかし彼の想い人はマグルで。
『例のあの人』による最後の犠牲者になってしまった。

『ポッター夫妻、息子ハリーを守って死す』

  
 日刊預言者新聞の大きな見出しの隣に幸せそうに笑う彼らの写真。
 彼らは時々いなくなってしまうけど、そこには確かに存在していた、のに。

(リリー、エバンズ…)

 燃えるような赤い髪と、自分と同じエメラルドグリーンの瞳。
 少女だった彼女はとても素敵な女性に――強い母になっていた。

(『例のあの人』の前でも屈しなかった。息子を命と引き換えに守ったんだ)

 セブルスはどんな気持ちでいるのだろう。
 闇の陣営側にいたとして、魔法省で裁判を受け始めて数日が経つ。
 リリーを弔うことができただろうか。

(あぁ、でも)

 もう彼女のことは忘れているのかもしれない。
 彼が大切にしていたあの百合のことも。
 本当にあちら側に行ってしまっていたのなら――。



 
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