第22章 第二部 祝杯
談話室にただ一つの暖炉の前にピースは立っていた。
その背中にキラは声をかけた。
「お待たせしました」
「わっ!」
「あ、すみませんっ」
ピースの飛び退るような驚き具合にキラも思わず一歩退く。
「ご、ごめん…ちょっと考え事してて」
そばかすの目立つ顔をくしゃりと崩してピースが笑った。
「いえ。それで…あの、どのような作業ですか?」
「作業?」
目をパチクリさせるピースにキラもあれ?と首を傾げれば、彼の「あぁ…」と納得するかのようなため息が漏れた。
「うん、ごめん、監督生の仕事じゃなくて。ものすごく、僕の個人的な要件なんだ」
「え?」
「僕は来年卒業だから…長くは一緒に居られないけど。卒業した後のことも含めて――」
キラの左手にピースが触れて、ぎゅっと握りこまれる。
「僕と付き合って欲しい。ずっと…去年から、君のことが好きなんだ」
ヘーゼル色の瞳にポカンとしたキラが映る。
「え、と…その…」
キラの頭の中で、ピースの言葉がぐるぐる回る。
(ピースが? 私のことを、好き…?)
彼が好意的であるということはわかっていた。
一部のスリザリン生は未だにキラのことをブルーム家の混血児などと蔑むような視線を送ってくるのに対し、ピースはいつも優しく穏やかに接してくれた。
アニーの兄グラエムのような裏は感じさせない、良き先輩。
模範的な監督生として、そして優秀な先輩としてキラはピースを見てきた。
特にここが気に入らない、ということもない相手――というのが正しいのだろうか。
恋愛対象として考えたこともなくて、キラは大いに戸惑った。
「ギルデロイ·ロックハートも、君にアプローチしてるって聞いたけど。その様子だと…彼よりは脈アリだと思ってもいい?」
真剣な表情を少し崩して、ピースはキラにそう言った。
確かに――あの男よりは断然ピースの方が良い。
けれど、自分はピースのことが好きというわけでもなくて。
「わ、私は――」
「待って。まだ答えはいらないから」
「え…」
キラの左手をピースが両手で包み込む。