第4章 近づく距離
「あった…これだ!」
"おできを治す薬"とある。
レシピを順に読んで行くと、祖母と予習した際に書き込んだ日本語のメモが目に飛び込んできた。
"なめくじは固ゆでにしないこと。十三秒"
そして思い出す。
『ゆでた後に他の材料と一緒に煮るから時間は短くて良いわ。そうしないと、軟膏薬なのに固くて塗りづらくなるの』
『どうしてそうやって教科書に書いてないの?』
『教科書のレシピはね、完璧なレシピじゃないの。混ぜる回数とか、入れる順番とか、基本的なところしか書いてないのよ。だから、本当はもっと良い物が作れるんだけれど、そういうのは自分で見つけなくちゃいけないの。お料理と一緒ね。自分で隠し味をつけるのよ』
この作業が面白くて、いつもホラスと議論を交わしたのよ――。
祖母の笑顔が脳裏に蘇る。
(…がんばらなくちゃ!)
再びベルが鳴り、クラスメイトたちのおしゃべりが止んだ。
キラは深呼吸して、挑むような目つきでスラグホーンを迎えた。
調合は二人一組で行うということだったので、キラはアニーとペアを組んだ。
牙は蛇のものであった。
アニーがトンカチで粉々に砕いて、さらに薬研で細かく粉末状にする。
「これくらい…かな?」
「うん、それで大丈夫だと思う」
キラはナメクジを鍋に入れて十三秒数えたら、すぐさま取り出した。
「もう…?」
周りと比べて、ナメクジを取り出すのがあまりに早い。
アニーはハラハラした様子でキラを見た。
「大丈夫、おばあちゃんに教えてもらったから」
「それなら大丈夫ね」
ほっと胸を撫で下ろすアニーだったが、キラの胸中は穏やかではなかった。
本当に大丈夫かどうかなんてわからないのだ。
内心ドキドキしながら、干しイラクサ、粉末状の牙、ゆでナメクジを大鍋に入れて煮る。
沸騰したことを確認したら、火から下ろして山嵐の針を加えた。
銀の匙でかき混ぜると、見る見る内に黄緑色をしたジェル状に変わった。
「わ…これで出来上がりかな…?」
アニーが周囲と比べようと見渡してみるが、ゆでナメクジに時間をかけたペアばかりなので、まだ完成していなかった。
そこへ、各ペアの大鍋を覗き込んで回っていたスラグホーンが、二人の大鍋の中を見るなり手を叩いた。