第4章 近づく距離
「ブルーム家の令嬢が遠く離れた異国の地へ嫁ぐと知ってどれほど驚いたことか。あのときは才能も将来も全てドブに捨てる気かと思ったが…彼女は捨てるどころか、全てを手に入れた」
祖母をベタ褒めされるのは悪い気はしない。
しかし、キラの顔は徐々に引きつっていった。
クラスメイトがキラを興味津々で見ていることに気づいたからだ。
セシリー・ブルームという人がいかに有名であるかを思い知らされる。
そして、その孫である自分にどれほどの期待を背負わせるのか…まだ喋り続けるスラグホーンの口を押さえ込みたくなる。
「彼女の活躍は皆もよく知っているだろう。自慢の友人だ。その孫である君がこうして私の生徒としてここに座っている…。私はこの幸運にとても感動しているよ。セシリーと同じく、優秀な成績を収められるだろう」
キラはいびつな笑顔を返すので精一杯だった。
期待が重過ぎる。
それに応えられるだけの力量が自分にあるとは思えなかったが、大げさなスラグホーンの思い出語りのせいでクラスメイトの視線は熱い。
(どうしよう…この授業、失敗できない…!)
教壇ではいつの間にかスラグホーンが魔法薬学とは、を語りだしている。
キラは一字一句聞き漏らさぬよう、必死の形相で前を睨み付けた。
やがてベルが鳴り、三時限目の終了を告げた。
ホグワーツの授業はほとんどが二時限続きのため、次も続けて魔法薬学となる。
休憩後には早速魔法薬を調合する、と言い残してスラグホーンは準備室へ引っ込んだ。
キラは大急ぎで教壇前の作業机に置いてある魔法薬の材料を確認しに行く。
にわかにドタバタし始めたキラにキャリーが怪訝な顔をする。
「どうしたの? そんなに慌てて…」
「さっきの教授の、聞いたでしょ? あんな風に言われて、調合に失敗でもしたら……考えただけでも最悪!」
キャリーの方を見向きもせずにキラは教科書をめくる。
干からびたイラクサ、何かの牙のようなもの、角の生えたなめくじ…いや殻のないかたつむり?のような生き物。
そして針のような形状のもの。
これらを材料とする薬は…と、キラは目を皿のようにして文字を追う。