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【HP】月下美人

第22章 第二部 祝杯


 半分になった月を見上げながら、草むらを踏み締めて歩く。
 禁じられた森の奥から吹く風は冷たく、湿り気を帯びていた。
 スン、とその匂いを胸に溜め込んでは吐き出すと、自分が自然と一体化したような錯覚に陥る。
 この感覚がキラはたまらなく好きだった。
(――長居は禁物、っと)
 採取用の小瓶とピンセットを取り出してキラはそろそろと目的のものに近づく。
 つまみ上げたのはチカ、チカ、と光るワーム。
 触れるとブルブル震える野草。
 他にもいくつか薬草を採取して立ち上がろうとしたときだった。

「――セブルス…?」

 どこかに出かけていたのだろうか。
 足早にホグワーツ城へ向かう、闇に溶け込む黒い後姿が見えた。
(私、どれだけセブルスを見てるんだろ…)
 月は半月。
 暗がりの中でよくあれが彼だと分かるものだ、とキラは一人苦笑した。






 10月31日、ハロウィンの日、そして誕生日であるこの日。
 キラは朝からげんなりしていた。
 ギラギラしたローズピンクの封筒とともに真っ赤なバラの花束が彼女の目の前にあった。
 ライラック色のレースリボンがあしらわれたそれは、差出人を激しく主張しているのが丸わかりだ。
「これって、このまま送り返してもいいものかな」
「そうね…返す度に何か増やして送ってくる、なんてことがなければいいんじゃないかしら」
 キャリーの気の毒そうな言葉にキラは大きなため息をつく。
「とりあえず貰っておいたら…?」
「はぁ…本当に、鬱陶しいんだけど。どうして私に執着するのかな」
 肩を落としながらキラは封筒を手にする。
 じっと外観を見て、変な魔法がかかっていないか神経を尖らせてからそっと封を開けた。
 そこにはお手本かと思うような綺麗な字で、『麗しの姫君キラ・ブルームへ』と書かれていた。
 後はいつも彼が口にしているような美辞麗句が延々と続き、交際を申し込む文言で締めくくられている。

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