第22章 第二部 祝杯
「スネイプ教授、少しよろしいでしょうか」
「なんだ」
真上から見下ろされながら、キラは教室の使用許可を求めた。
スネイプは面倒くさそうな顔を隠しもせず、腕組みをしつつ手で顎をさする。
「あの、ちゃんとレポートも出しますので」
「――まずは実験の計画書を提出しろ。内容によっては許可する。そして作成した魔法薬は実験の実録レポートと一緒に提出すること…それが条件だ」
「け、計画書、ですか」
行き当たりばったりでやっているわけでは決してないが、スラグホーンはそんなもの求めてこなかった。
ひく、とキラの頬が引きつるのを見逃す彼ではない。
「ほぉ? よもや、何も見通しを立てずにむやみやたらに調合を行っているとでも?」
「まっまさか! ちゃんと考察した上で――」
「ならば問題はないだろう。先に計画書を出せ」
「は、はい…」
「それから、私は実験には立ち会わない。よって怪我などくれぐれもしないように」
「え…」
実験に彼が立ち会わない、なんてことがあるなんて。
キラはびっくりして目を瞬かせる。
「私は暇ではない」
「あ…す、すみません」
「ホグワーツを空けることも多い。よって危険だと判断した場合、その実験は却下だ」
「――わかりました」
自分たちは温室であれこれやってたくせに…と思いながら頷くと、スネイプが目を細めて言った。
「不満そうだな」
「いえ、そんなことは」
きっとキラが何を考えているかお見通しなのだろう。
「目の届かぬところで何をしようが勝手ではある――禁じられた森への接近も誰にも見られていないのならば咎めることもできない」
「……」
険しい目で、”夜中の徘徊は知っているぞ”と語ってくる。
「――ご迷惑はおかけしません」
「…一体、何のことですかな」
「いえ。では、計画書を作って持ってきます」
キラがぺこりと頭を下げるのを見たのか見ていないのか。
顔を上げたときには、すでにスネイプはローブを翻して準備室の扉へと手をかけていた。
(せっかちな人…)
教授、という立場はそんなにも忙しいのだろうか。