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【HP】月下美人

第22章 第二部 祝杯


「――さて、それでは調合を始めるが…注意すべきは一点だ。鍋から立ち上る煙を吸わないこと。二度と目覚めたくないのであれば別だが」
 数人の生徒がゴクリと唾を飲み込むと同時に”始め”の掛け声が掛けられた。

 二度目以降の魔法薬学の授業ではちゃんと教科書が使用された。
 スネイプの中でこのクラスがどういう実力を持っていると判断されたのか皆目見当もつかないが、クラスメイト達は真剣な面持ちで材料の準備をしている。
 キラは教科書通りでもきっちりとしたものは作れるが、ほんの少し工夫をするだけで良質なものになるのはわかっていた。
 しかしそれを実施するのはいかがなものか。
『生ける屍の水薬』は、非常に強力な眠り薬だ。
 飲み薬なので普通に作れば煙を吸い込んだだけで眠りに落ちることはない。
 だがミスがあったときにどうなるかは誰にも分からないため、スネイプはあのように注意をしているのだ。
 キラはアニーが怪我をして以降、ミスが怖くて仕方がない。
 もちろんそう簡単にミスはしないし、鍋をのぞき込むような真似をする者もいないのだけれども。
 他人を巻き込むのが怖くて、授業中に何でもかんでも試すということはしなくなっていた。
 特に五年生あたりから授業内容が難しくなってきたし、効き目の強い薬を扱うことも増えてきていたからだ。
 実験がしたい場合は、授業後に別途調合器具を借りられるようスラグホーンに掛け合っていた。
(セブルスに…いや、スネイプ教授は許可をくれるかな…?)
「キラ?」
 手が止まっていたのを見てキャリーが気づかわしげに覗き込んでくる。
「あ……ごめん、ちょっと考え事」
「そう? あらキラの言った通りだわ。催眠豆の汁って本当に少ないのね」
 教科書通りにすると催眠豆をいくつか潰す必要があるのだが、キラと事前に予習していたキャリーとアニーはほんの少しナイフの使い方を変えてより多くの汁を集めることに成功した。
 そうして三人はその日の授業もつつがなくこなして、終業のチャイムを聞く。
 スネイプが教室を去ろうとするのをキラは急いで呼び止めた。


 
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