第1章 9と3/4番線
話には聞いていたけれど。本当にここ?
キラは不安になって祖母を見る。
どう考えても、目の前は柱だった。
この先に9と3/4番線、なんていう訳のわからないホームがあるなんて。
名前はもちろん、場所もデタラメだ。
「大丈夫よ、ぶつかったりしないわ。そのままスッと通り抜けるのよ」
そう言いながら、祖母はキラの荷物の載ったカートを押して、本当に"スッ"と柱の向こうへ消えてしまった。
魔法って、何でもありだ。
先の見えないところへ何の疑いもなく入っていけるって、凄いことだと思う。
もし思っても見ないところに繋がってしまっていたらどうするんだろう。
「ここからはもう違う世界…、ってことか」
キラは覚悟を決めて、柱の中へと突っ込んだ。
これから先、今まで育ってきた日本、そして非魔法族での生活の常識は通用しないのだと、自分に言い聞かせながら。
そこには、先ほどまで居たキングズクロス駅ではずいぶんと目立っていた変な格好の人たち…魔法族で溢れていた。
もちろんキラのような普通の、つまり非魔法族のような姿をしている人もたくさんいるのだが、やはり長いローブに尖がり帽は目立つものだった。
「キラ」
自分を呼ぶ声に気づき、キラは祖母の元へ駆け寄る。
「顔が強張ってるわ。緊張してるの?」
目尻の皺を深くして祖母が優しくキラの頬を撫でる。
そして、キラと同じ緑色の瞳で見つめる。
「あなたなら大丈夫よ。わたしの自慢の孫なんだから。それに、英語だってたくさん練習したでしょう?」
「うん…」
祖母はキラの不安を払拭するように、ひとつひとつ今日までの準備を並べ上げてくれた。
小学校を卒業した翌月4月からは祖母と二人でイギリスに渡った。
こちらの文化に慣れるためだ。
食事のマナー、お風呂の入り方、土足文化など――。
指折り数えると、肩に入っていた力が少し抜けてきたような気がした。
「それから、最後のプレゼントよ」
「え?」
祖母は後ろ手に隠していたものを見せてくれた。
「それ…」