第20章 それは確かな
三年生が始まって最初の日曜日。
キラは独り、小雨が降る中温室にやって来た。
サーッという雨音の他に、時折温室の屋根をぱつんぱつん、と木の枝から滴る大きな水の粒が跳ねる。
まるでこの温室だけ、隔離されたような、世界から取り残されたような、そんな気分になる。
「エンゴージォ」
キラはいつものようにテーブルセットを大きくして、カウチに座った。
当然、隣には誰もいない。
後から来る人もいない。
「やっぱり、キャリーとアニーを誘えば良かったかな…」
ぽつり。
キラは独りごちた。
でも、ここにセブルスとダモクレス以外の人がいるだなんて、想像もできない。
誰も座る予定のないソファと、随分余裕のある自分の隣が視界に入る。
これからずっと、ここには自分一人だ。
夏休みの間は何とも思わなかったのに。
ここに来ると、色んなことが思い出される。
「……寂しい、な…」
セブルスと最後に交わした言葉は、何だっただろうか。
ちゃんと挨拶をしたかった。
最後の日、彼の姿は人ごみに紛れて消え去ってしまった。
(なんで、こんなに……)
息が苦しくなる。
イザドラと話をした日から、キラはずっと考えていた。
自分がセブルスを好きだなんて、考えたこともなかった。
けれど。
図書室に彼が居ない。
温室に彼は来ない。
大広間で食事をする姿を見つけることも、廊下ですれ違うことも、寮の談話室で見かけることも。
何もないのだ、とここ数日で思い知った。
鼻の奥がツンとして、視界がぼやけ出す。
ぎゅっと握った拳に、皺になったスカートに、ぽたぽたと涙が落ちる。
思い浮かぶのは、蝙蝠のような後ろ姿と、魔法を操る際の真剣な顔。
(どうして、今更)
貴方が好きだったと、気づくなんて。
end