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【HP】月下美人

第20章 それは確かな


 さっきの変な気持ちを、イザドラはわかってくれるだろうか。
 キラは図書室での出来事を話してみることにした。





「――その人のこと、好きだったんじゃないかしら」

 キラの話を聞き終えたイザドラは眉尻をほんの少し下げて、ぽつりとそう言った。

「え……」

 ぱちくりと瞬きをして、キラはイザドラを見つめる。
(好き? …まさか)
 そんなこと思ってもみなかった、という顔をするキラ。
「…違ったらごめんなさいね。でも…私は、そういう風に思ったのよ」
 キャリーにするように、イザドラはキラの頭を撫でてぎゅっと抱きしめてきた。
「話を聞いてくれてありがとう。ちょっと、スッキリしたわ」
「いえ…」
 キラが首を振って否定すると、彼女はそういえば、としんみりした空気を変えるように明るい調子の声を出す。
「キャリーから聞いたわ。夏休み中、ずっとマナーのお勉強をしていたんですってね。大変だったでしょう?」
「あ…はい。先生が厳しくて」
「エルカレッセ先生でしょう? 二度ほどお会いしたことがあるの」
「そうなんですか?」
 キラはエル先生、と彼女のことを呼んでいた。
 小柄でいつも控えめに微笑んでいる彼女だったが、授業となると雰囲気が一変する。
 初めて顔を付き合わせた日は、誕生日が同じことで盛り上がり打ち解けられた、とキラは思った。
 しかし翌日から始まったマナー講習で、そんなのは嘘だと思い知る。
 歩き方講座ではヒールで階段を何十回も往復させられ、廊下を音を立てずに歩く練習をさせられる、という 中々のスパルタ具合だった。
「ダンスも教わったの?」
「はい。お陰様で十曲は踊り続けられるくらいにはなりました」
「まぁ…それは本当、大変だったのね」
 心の底から同情している、という様子でイザドラはそう言った。

 そんな話をしながらも、先ほどのイザドラの発言はキラの心の片隅にひっかかったまま取れることは無かった。



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