第20章 それは確かな
(どうして……?)
ただの違和感を持っただけではなく、そこに座らないで!!という怒りに似た感情が沸き起こったことに、キラは自分でも信じられなかった。
「…キラ?」
談話室への入り口で立ち竦んでいると、自分の名を呼ぶ声が聞こえた。
「どうしたの? そんなに怖い顔をして」
「え…」
「眉間に皺なんて寄せて…」
イザドラがカウチから立ち上がり、キラの眉間にそっと触れる。
「…イザドラ…泣いて…?」
彼女の目元は赤くなっていた。
「ちょっと、ね。グラエムがいないことが寂しくて。…ねぇ、少し話せないかしら」
そう言ってイザドラがキラの手を引き、先ほどまで座っていたカウチに二人隣り合わせで座った。
イザドラは小さく笑いながら、独り言でも言うかのようにキラに話しかける。
「私ね…グラエムとたった一年離れるだけなんて、平気だと思ってたのよ。だって、別れるわけじゃないんだもの。婚約者だもの…クリスマスにだって会えるしね。だから、寂しくなんかないと思ってたわ」
でもね、とそこでイザドラはため息を漏らす。
「ホグワーツ特急の…コンパートメントに彼が居ないことなんて、これまで無かったから。変ね、そんなこと当たり前なのに、それがとても悲しかったわ」
キラは黙って彼女に耳を傾けていた。
なんだか今の自分の気持ちにそっくりだ。
「朝食も…いつも隣にグラエムがいたのに、今日は違ったわ。私のことを思って、一人にしないでいてくれたのにね、何だか苛々してしまったのよ。私、本当にグラエムのことが好きなんだな、って…まだ今年度が始まってすぐなのに、こんなに寂しいなんてね…」
ふふふ、とイザドラは綺麗な顔をして笑う。
「……」
自分の心まで痛くなってきた気がしてキラは彼女から目をそらした。
「ねぇ、キラ。あなたは大丈夫かしら」
「え?」
イザドラの問いかけに、キラはまた彼女の深いブルーの瞳を見つめる。
「キャリーが心配していたわ。あなたにとってとても大切な人が二人も卒業してしまったから、って」
「あ……そう、ですね…」