第20章 それは確かな
始業式の翌日の朝、キラは久しぶりに温室に足を踏み入れた。
屋敷しもべ妖精が手入れをしてくれていたので特に心配はしていなかったが、今日からはまたキラが世話をする。
「うん、問題ないね」
水遣り後に花壇に屋敷しもべ妖精へ感謝の手紙を置いた。
と、詰まれたレンガの端っこの方に小さくなったテーブルセットが目に入る。
「…………」
卒業式の日――キラはセブルスに会うことはできなかった。
ダモクレスと一緒にいると思っていたが、彼の隣には別の友人が座っていたのだ。
愕然とした。
そう…ダモクレスとセブルスは、仲良しの友達、ではなくて。
キャリーやアニーとキラのような、いつでも一緒の友達という関係ではないのだ、ということを思い知らされた。
途端、自分とセブルスの関係が一体何だったのか――元々ピタリと当てはまる言葉は無くあやふやだったものが、さらに霞のように取り留めの無いものになってしまった。
彼らが卒業してしまってぽっかり空いた穴の、キラはここに戻ってきて初めてその大きさを知る。
あの日、涙が止まらなくて驚いたけれど、なんら不思議なことはなかったんだと。
キラの心の半分、いやきっとそれ以上。
キラはとぼとぼと歩いて温室を後にした。
最初から朝食に遅れていては、キャリーからまた怒られてしまう。
「今日は必須科目と…私たちは占い学があるわね」
「キラはどうするの…?」
朝食を取りながら、三人は今日の時間割を確認する。
「私は魔法薬学で終わりだから、スラグホーン教授に自主研究の許可を貰った後、図書室に行くよ」
今年度からは誰にも頼らず、自力で魔法薬の最適なレシピを見つけ出そうとキラは意気込んでいた。
「わかったわ」
そう言ってから、キャリーはキラを観察するように眺めてにこりと笑う。
「な、なに?」
「ふふふ、キラ、マナー講座が随分と厳しかったみたいね」
「う…うん…」
以前のキラと比べて、食事をするときの仕草が美しくなったとキャリーが言う。