第20章 それは確かな
別れを惜しむ生徒たちの塊が突然バッと広がり、ある二人の生徒の周辺に丸く人垣を作った。
「ん…?」
突然開けた視界。キラはなぜか人垣の一番前に居た。
生徒たちが場所を丸く開けた理由は、すぐにわかった。
その中心に居る女子生徒の前で、男子生徒が跪いていたのだ。
(あれは…)
真っ赤な太陽のような髪の毛の持ち主。
(リリー・エバンズ…じゃああれは…)
肩膝をついて、リリーの片手を取っているのはあのジェームズ・ポッターだった。
これはもしかして、と気づいたキラは両手で口元を覆う。
(これって、これって…プロポーズ…だよね?!)
周囲の生徒が固唾を呑んで二人を見守る。
二人に一番近いところにシリウスとリーマスがいた。
「リリー・エバンズ!」
大声、というわけではないが辺りによく通るジェームズの声。
「君のことを、一生大切にするよ。君の笑顔を守りたい。君がいれば、僕はいつだって笑顔でいられるんだ」
キラはセブルスとダモクレスを探すのも忘れ、彼の声に聞き入った。
「リリー。愛してる。僕の家族になってここから、一緒に家に帰って欲しい」
真っ直ぐな愛の言葉。
「――僕と、結婚してください」
誰もが、リリーの返答を心待ちにする。
突然のことに驚いていた彼女だったが、真っ赤な顔で微笑んだ。
「…もちろんよ、ジェームズ」
ジェームズはその言葉を聞いてすぐ、リリーを抱きしめた。
わぁっ!という歓声と、おめでとう!という祝福の言葉が二人を包む。
パンパン!と音が鳴り、ファンファーレのようなものも聞こえてきた。
一斉に二人に駆け寄る生徒たちにキラは飲み込まれてしまった。
(あ……!!)
押し寄せる人の波にほんの少しの隙間ができた。
「せ、セブルス…!」
探していた彼の姿がチラと見え、キラは手と声を上げるも虚しく再び渦の中に取り込まれた。
卒業生の中でカリスマ的人気を博していたジェームズの周りはどんどん生徒が増えて大騒ぎになる。
何とかその輪から抜け出そうともがくキラだったが、やっと人が減ったと思った頃には、すでにセブルスの姿はどこにもなかった。