第20章 それは確かな
穏やかな時間はあっという間に流れていった。
日が落ちて辺りが暗くなったのに気づいて、ダモクレスが立ち上がる。
「そろそろ夕食の時間だねー」
「そうだな」
同じく立ち上がるセブルスであったが、キラが中々腰を上げない。
「どうした」
「あ、あの――」
ついにこの時が来てしまったか、とキラはゆっくり立ち上がる。
「今まで、本当に、ありがとうございました。匙も…すごく嬉しかったです」
キラは声が震えそうになるのを堪えた。
(うう、泣きそう…)
泣き顔を見られるのが嫌で、キラはぐっと目を閉じて俯いたままポケットから、小さな包みを取り出した。
「手を…出してください」
二人の手はどちらもとても白く、荒れている。
両手を揃えて出してくるのはダモクレスだろう。
片手なのはセブルス。
それぞれの手の平に刺繍が施されたお守りを置く。
(これを渡したら、もう今日が終わり…)
温室から出る前に渡そう、と決めていた。
だからこれを渡すということは、もう彼らとの時間が終わりだということなのだ。
「日本の、お守りです。研究が上手くいきますように、と…怪我や病気などしないように、と言う意味が込められています」
顔を上げて、二人の顔を見ることができない。
見たら、きっと泣いてしまう。
「ワォ! ありがとう、キラ!」
お守りを受け取るなり、ダモクレスにガバッとハグされてキラは驚いた。
「わわわ!」
ハグが挨拶として一般的なのはもう分かっているし慣れていたが、ダモクレスにハグをされたのは初めてかもしれない。
「ほらほら、セブルスも! これで最後だしさ」
「えっ」
そんなこと、セブルスがするわけがない。
だって彼のそういうところなんて一度も見たことがないのだ。
「…………」
三秒ほど後。
セブルスは控えめに両腕を広げ、一瞬だけキラにハグをした。
「貰っておく」
その一言で、キラは涙が堪えきれなくなった。
「ふっ…うぅ…」
ぱたぱたと雫が落ちる。
「ちょっとー、泣いちゃったよー!」
「…知らん」
「キラ、泣かないで」
「う…っく……ぅぅ…」