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【HP】月下美人

第20章 それは確かな


 そして、セブルスの百合はなんと処分してくれて構わない、と彼が言い出した。
 キラはまさか、と思ったがこのまま面倒を見る、と意志を伝えた。
『いつか、見に来てください』
『……』
 微笑むキラにセブルスは何の反応も示さなかった。
 約束して欲しいわけじゃない。
 いつかまた会えたらいいな、とそう思っただけなのだろう。
 セブルスは分かっていたが、無言を貫いた。



 サンドイッチを食べながら、三人はダモクレスの行く研究院からの手紙を確認した。
「ポリジュース薬自体は効くみたいだよねー」
「まぁ、本人にはなれないがな」
「本人になったら結局人狼になっちゃうんですもんね」
「で、凶暴性は何も変わらない、と」
 うーん、とダモクレスは右手で頭をぐしゃぐしゃと掻き回す。
「意識を保てないのが一番怖いらしいから…精神を安定させる薬が必要ってことだよねー」
「そういう薬はあるんですか?」
「そうだな…」
 キラの問いにセブルスが少し考える素振りを見せた。
「ああ、"安らぎの水薬"というものがある。だがこれは――」
「眠り薬に近いかなー」
「不安に思う気持ちや動揺した心を鎮める。効き目が良すぎるとそのまま眠りに落ち、二度と覚めない」
「に、二度と…?!」
 なんと恐ろしい薬だろうか、とキラの顔が強張る。
「確か月長石やバイアン草のエキスとかが必要だったよねー」
「授業で習う薬だ」
「そうなんですか」
「結構難しい薬なんだよねー。月長石はなんか使えなさそーだから、バイアン草かな」
 先は長いなーと嘆くダモクレスに、セブルスは当然だ、とばかりに腕を組んで押し黙る。
 頭の中で、様々な薬の材料を思い浮かべて何を組み合わせようか、と考えを巡らせることは嫌いではない。
 脱狼薬の開発は心が躍るような気持ちになる。
 しかしそれも今日で終わりだ。
 こうやって温室で過ごすことはもうない。
 死喰い人、という目標はすぐ近くまで来ている。

(考えても無駄か)

 そう思うと、少しだけ熱が冷めたような気がした。
 それでも頭の片隅で、材料になりそうなものはないか、と記憶の中を探ることは止められなかった。

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