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【HP】月下美人

第20章 それは確かな


「手を出せ」
「はい…?」
 ポケットから剥き出しのままの石の匙を取り出して、キラの手の平に置く。
「あ…!」
 石の匙とセブルスの顔を交互に見て、キラは笑みを零した。
「いいんですか…?!」
「ああ」
「ありがとうございます! 大切にします!!」
 わぁぁ、という感嘆の声にダモクレスがぷくっと頬を膨らませる。
「ちょっとー! なんか喜び具合の差が大きくなーい?! ひどーい!」
「そ、そんなことないですよ!」
 たぶん、と小さく付け加えたのをセブルスは聞き逃さなかったが、わざわざそこをつつくことはしない。
 ただ、セブルスは妙な優越感を得たのである。
「どちらも、大切に使います。まだ、どのタイミングで使うのかわからないですけど…」
 キラは二つの匙を大事そうに握り締める。
「ただ授業を受けているだけでは、どちらも使い道はほとんどない」
「えっ」
 セブルスの言葉にキラは目を丸くする。
「それって…つまり…」
「俺たちみたいに、魔法薬学マニアにならないとねー」
 期待してるよ、と笑うダモクレスにキラはとんでもない!と首を振る。
「そんな簡単に言われても…」
 キラからすればやっぱり二人は到底手の届かない師匠のような存在だ。
 こうなってしまえば手の中の匙が重いような気がしてくる。
「勿論、簡単ではない」
「う…」
 じっ、とキラを見つめれば彼女は視線をそらすことなく見返してきた。
 戸惑うような瞳に、吸い込まれそうな気持ちになる。
「――精々、努力することだな」
「くっ…最後まで厳しいですね…」
 思わず口をついて出たのであろう言葉に、セブルスはフッと笑った。
「当然だ」
 口の端をわずかに上げて、ニヤリという描写がぴったりなセブルスをキラはキッと見上げた。
「――頑張ります!」



 その後は、三人で花壇の手入れをした。
 ダモクレスの薬草はそのままキラが受け継ぐことになった。
 トリカブトは一部は院へ運び込んだらしいが、残ったものはここでキラが育てる。
 必要となれば梟便でダモクレスへ送ることにした。


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