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【HP】月下美人

第20章 それは確かな


「はぁ…」
 目の前の空いた席をチラチラ見てしまう。
 あんまり気が散るので、キラは読書を諦めた。
 キャリーたちと一緒に居る方がよほど建設的だ。
 そっと立ち上がり、図書室を出て行こうとしたときだった。
「あ…」
 目に飛び込んできたのは、先ほどまで思わず探してしまっていた痩身の彼。
 マダム・ピンズに借りていた数冊の本を渡している。
 と、キラの姿に気づいたのかセブルスがこちらに一瞥くれた。

 パッ、と晴れたような顔と目が合う。
 音を立てないように早歩きでセブルスの元にやってくるキラ。
 まるで犬のようだな、とセブルスは思った。
 それはあながち間違いではなく、キラはセブルスを見かけるとニコニコ笑う。
 本を持っていれば、それは何というタイトルか聞いてくるし、レポートを抱えていればどれだけの量書いたのか尋ねてくる。
 それが他の生徒であれば鬱陶しいと思っただろうが、どうもキラに大してはそういう気持ちが起きない。
 卒業すれば彼女に会うこともなくなるのか、と当たり前のことを考えた。
「本の返却ですか?」
「ああ」
 空いた手をキラの視線が一瞬捉えたことにセブルスは気づいた。
 本があれば、「次は何を読むんですか?」とキラは聞いてくる。
 いつもなら新たに借りる本を手にしているが、それももう無い。
「……」
「……」
 続けられない会話にセブルスとキラの間に奇妙な沈黙が訪れた。
(ど、どうしよう…)
 何か話したいけれど、何を話せばいいのかわからない。
 キラはあちこち目を泳がせて糸口を探す。
 セブルスはむっつりと黙り込んだままだ。
 普段であれば、用がなければすぐに行ってしまうのに今日は違う。
 彼にも何か思うところがあるのか――キラはセブルスが何か言ってくれやしないかと願った。
 セブルスはというと、何か物言いたげなキラをただじっと見ていた。
 自分は他人のことを煩わしいと思っている。
 ダモクレスに関してはもうただの腐れ縁みたいなものだ。
 鬱陶しいけれど、放っておく方がもっと面倒くさい。

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