第20章 それは確かな
「食事のマナーは問題ないように見えるわよ」
重苦しそうにするキラにキャリーが苦笑する。
「う、うん…」
「あなたのひいおばあ様がどんな方かはわからないけど…それなりの名家としての振る舞いは身につけて欲しい、と思ってらっしゃるのよ」
「うう…」
「その内パーティーで会えたらいいわね」
「そうだね…いつも退屈だもの…」
「パーティー?」
「ええ。貴族同士のね。大人たちの社交場、ってヤツよ。私たち子供には関係ない…いえ、多少関係はあるわね。私たちの結婚相手探し、という目的もないわけじゃないから」
「うえぇ…」
情け無い声を上げるキラに、キャリーがくすくす笑う。
「あなたはきっと大丈夫よ。おばあ様も、あなたのお母様もちゃんと好きな人と結婚したんでしょう?」
「う…うん」
「ブルーム家は純血に強く拘ってはいないはずよ。マグルでも、魔法さえ使えたらいいんじゃないかしら」
キャリーはそう言ったが、キラは内心ハラハラしていた。
祖父も父も完璧なマグルだからだ。
曾祖母が母がスクイブであることを隠したい旨を聞いていたので、キラは曖昧に笑うしかない。
(ま、まあ大丈夫だよね…私、日本にはきっと帰らないし…)
その内出会いもあるだろう、恋することもあるだろう、とキラは思ったのだった。
翌日の午後、キラは図書室に来ていた。
いつもの席にセブルスが居やしないかと思ったのだ。
しかし、そこは空席だった。
(当たり前か。荷物の片付けで忙しいよね)
思えば、五つも学年が離れた自分に随分と構ってくれた。
昔からの知り合いでもなく、ただ園芸に詳しかったというだけで。
縁とは奇妙なものだ、とキラは思う。
それを一度口にしてみようとしたことがあったが、英語で説明できなくて断念した。
ぱらり、と手元のページをめくってみても、アルファベットの羅列は頭に入ってこない。
明日が来なければいいのに、と思ったのは何度目のことだろうか。
小学校を卒業する前の日も、イギリスに出発する前の日も、確かそう考えた。
明日が温室で過ごす最後の日曜日になる。