第20章 それは確かな
最終的には作業場として腰を落ち着けてはいたが、靴は履いたまま。
靴底を綺麗にする魔法をかけてから上がる、ということでキラが折れたのだ。
「それで、今年はどこに行くの?」
「オーストリアの予定よ」
「…うーん? どの辺りにある国?」
「ドイツの隣よ。モーツァルトが生まれた国よ」
「え? モーツァルト?」
驚いたようにキラがおうむ返しする。
モーツァルトと言えば、キラでも知っている有名な作曲家ではあるが、魔法使いの世界でも有名なのだろうか。
純血を大切にする魔法使い達は、マグルの文化には疎いことが多いのである。
「あら、知らないの? モーツァルトはハーフブラッドよ」
「え?! そうなの?!」
「彼自身が魔法を使えたかどうかは知らないけれど、彼のお母様は魔法使いだったの。ホグワーツには音楽の授業がないから、キラは知る機会がなかったのね」
「モーツァルトのお父様が、彼の音楽の才能に気づいて幼い頃から楽器を与えていたらしいから…魔法学校に通えなかったんだと思う…」
「そ、そうなんだ」
キラはまたもや驚いた。
授業で習いもしないのに、どうして彼女たちはこんなに詳しいのだろうか。
「キラ、あなたはお忘れかもしれないけれど…私たち、一応それなりの家の令嬢でしてよ?」
キャリーとアニーは口元を手で隠しながら上品にふふふ、と笑みを漏らした。
「そう、だったね」
すっかり忘れていた、とキラが笑っていると、アニーが少し首を傾げて言った。
「キラも、ブルーム家の令嬢だよ…?」
「……あー……そういう教養、やっぱり必要かな…」
「そうね…ある程度は」
キャリーの言葉にキラはずん、と気が重くなる。
一旦日本に帰るのだが、一週間ほどしか居られない。
曾祖母に呼ばれているのだ。
ブルームの屋敷には足を踏み入れることはできないのだが、別邸に滞在せよとのお達しだ。
早々にキラにブルーム家を託そうとしているのか、曾祖母が家庭教師をつけると言い出したからだ。
一体何をするんだと思っていたキラだったが、そういうことか、と目の前の二人のお嬢様を見て納得した。