第19章 目指す道
小さなバケツは裏向きに置いてタオルを一枚敷く。
これが椅子代わりだ。
そしてシャワーでシャンプー、リンスをして、体を洗う。
小さなタオルで石鹸を泡立てるんです、と細かく説明するキラにセブルスは呆気に取られた。
へぇ、とも、ふうん、とも言わなかったが、一番最後に「面倒だな」と呟いた。
それを聞きつけたキラは不服そうな顔をする。
「仕方ないじゃないですか。私にはバスタブもシャワーも両方必要なんです」
大体、バスタブに洗い場が併設じゃないとか不便すぎますよ!とぶつくさ文句を言い始めた。
「…もういい」
「良くないですよ! って、セブルス、荷物それだけですか?」
「ああ。言っておくが、キラ、お前の荷物が多すぎるんだからな。全く、何が入っているのか知らんが…」
「何って、バスマット、バスタオル、タオルが三枚、石鹸にシャンプー、リンス、洗面器に――」
「説明はいらん」
「えぇー」
ぶすっとして、キラはセブルスを見る。
そこで気づいた。
「セブルス、タオルを忘れてませんか?」
「ん? いや。タオルは不要だ」
「え?」
「これがある」
チラ、と見せたのは杖。
「…便利ですね」
「まだ使えないのか」
「乾きすぎると髪の毛が痛みますから」
「そういうものなのか」
「はい。こちらは日本とは水の質も違うので…合わないみたいですね」
温風を出す魔法は一応使えるので、いつも部屋に戻ってから髪の毛は乾かしているが、物凄く時間がかかる。
と、セブルスがおもむろに杖をキラに向けた。
「あ…」
ふわ、と温かい風に包まれたかと思えば、もう髪の毛が乾いていた。
「これぐらいか?」
問われて、キラは乾いた髪の毛に触れる。
「んん…ちょっと乾きすぎな気がしますけど…ありがとうございます」
杏油を先に馴染ませておいて良かった、とキラは小さく息を漏らす。
「フン。風邪を引くよりはマシだろう」
「そ、それは確かにそうですけど…」
それでも、乾きすぎは枝毛の元になるので極力避けたい。
さらさらと滑る髪の毛を左手で何度か梳いてみる。