第19章 目指す道
完璧に乾いているので、寝癖はつきにくいかなぁ、などと考えているとセブルスがキラの髪の毛に手を伸ばしてきた。
突然のことにキラは驚いたが、彼は何の気もなく不思議そうに問いかけてくる。
「これではダメなのか?」
キラの長い髪はセブルスの指の間をするりとすり抜けながら、軽やかにアプリコットの香りを放つ。
自分と同じ黒髪なのに、どうしてこうも違うのか。
例え洗い立ての髪であっても、こんな風にはならないだろう。
「あ、え、はい…髪の毛も、体の組織の一部ですから…乾燥に弱いんです」
だからと言って皮脂でべったりするまで頭を洗わないなんて、乾燥はしないだろうが我慢ならない。
「しっとりしてるかな、くらいがちょうどいいんです。…あ、シャンプー、使ってみますか?」
これを気にサラサラヘアーになってみてはくれないだろうか、とキラはシャンプーボトルを差し出してみた。
「いや、いい。荷物が増える」
「そうですか…」
即答かよ!とキラは思ったけれど、セブルスがこのシャンプーを使うことでフローラルな香りになってしまうかもしれないことを考えると、これはこれでよかったのかもしれない。
「…湯冷めするだろう。早く寮に戻れ」
「あ…引き止めてしまってすみません。えと…おやすみなさい」
「…おやすみ」
返ってきた応えに、キラは目を丸くする。
「なんだ」
「あ、いえ、何でもありません。おやすみなさい!」
キラは慌てて頭を下げ、寮へ向かって歩き出した。
(good night、って初めて言われたかも…)
ただその一言がなぜだか嬉しくて、キラはニヤけながら廊下を歩く。
そんな背中を見送って、セブルスはシャワー室へと消えていった。