第19章 目指す道
バランスを崩したダモクレスの手から、薬の瓶が中に浮く。
思わず懐に手を伸ばして、キラは気づいた。
(今日ローブじゃなかった…!!!)
杖はテーブルの上。
何の薬か分らないが、キラは覚悟してぎゅっと目を瞑った、そのとき。
「プロテゴ」
セブルスの声と、ごとり、と瓶が落ちる音。
「あ…」
固く瞑った瞼を開けば足元に転がる瓶と飛び散った液体から立ち上る煙が見えた。
セブルスが薬から守ってくれたようだ。
キラはほっとして潜めていた息を漏らす。
「まずい!」
ダモクレスがキラに手を伸ばしたと同時にドサリ、とキラが彼の腕に倒れこんだ。
「…どういうことだ」
薬の直撃は防いだはず。
セブルスの恐ろしく低い声に、ダモクレスは引きつった笑みを浮かべる。
腕に抱きとめたキラは、気を失っているようだった。
「いやーあのー…その…ね?」
「……」
「ちょっと、揮発性が高かったかなぁ…って…」
セブルスは無言で立ち上がり、ダモクレスからキラを奪い取るようにして抱き上げる。
「カウチを移動させろ」
「はーい…あ…」
くらり、とした瞬間、やってしまった、とダモクレスは後悔した。
「おい、ダモ――」
セブルスの声が遠くなった。
いや、セブルスの声が途切れた。
ダモクレスはごめん、と心の中で謝るより前に、意識を失う。
そしてセブルスは、キラをなんとかカウチに下ろした途端、目の前が真っ暗になった。
転がった瓶に貼り付ける予定のラベルは、『強力!煙型眠り薬~飲ませることが難しくても、煙を吸うだけ~』であった。
「――うう…さむっ…」
ぶるり、と身震いをして起き上がったのはダモクレスであった。
辺りはすっかり暗い。
「うわ…どれくらい眠っちゃったんだろう? 効果ありすぎだなー」
温室の電球を杖を振って点けてみれば、カウチでセブルスがキラに覆いかぶさるように眠っていた。
セブルスがカウチにキラを下ろした後すぐに眠ってしまったためだ。
寒いのであろう、キラがセブルスで暖を取ろうとしたのかその逆か。