第19章 目指す道
暖かな日差しが届くようになった日曜日。
いつものように花壇の手入れをするキラは、フンフンフンと鼻歌を歌っていた。
(もうすぐ咲きそうだなぁ)
バラが蕾をつけ出した。
去年新しく植えたバラも順調に生育していて、キラは上機嫌である。
セブルスの百合は連作障害を防ぐため、キラがバラを植えていた花壇と昨年は入れ替えていたのだが、今年はまた元の場所に戻す予定である。
落ち葉を入れて混ぜたのが吉と出るか、凶と出るか。
(バラを一年植えたくらいで連作障害を防げるかはわからないけど…まぁ…いいか)
次の開花の頃にはすでにセブルスは卒業している。
百合を見るためにここまで来るということも早々無いだろう。
温室で育てているため、植えた時期が中途半端だったのもあって百合もバラも通常咲く時期から多少ズレが出ているというのもあるが。
(それに…枯れても、新しいの植えておけば問題ないしね)
セブルスはこの百合を守るの躍起になっているところがあるが、植物は一所でずっと留まっていることはない。
種子を飛ばし、根を張り、葉を広げて徐々に子孫を増やしていくため、移動は不可欠だ。
新たな地で生長していくのは普通のこと。
もちろん、それを熟知して美しい庭園を作り上げることが庭師や園芸家の仕事なのだけれど。
(同じ場所に、ずっと留まることはできない)
花も、人も。
「キラー! おはよー!」
ダモクレスは朝からハイテンションだった。
とはいえ、もうすぐお昼という時間ではあったが。
「おはようございます。…どうしたんですか?」
「見て見て! 新しい薬が完成したんだよ!!」
「新しい薬ですか?」
どんなものだろう、とキラは園芸用の手袋を外して立ち上がる。
と、今にもスキップしそうなダモクレスの後ろにセブルスが居るのが見えた。
「セブルス、おはようございます」
「ああ、おはよう」
セブルスはそう言ってさっさとソファに座ってしまうが、いつものことなのでキラはダモクレスの持つ薬に視線を移した。
「それは何の薬ですか?」
「これはねーっと、あ…!」
瓶の蓋を取り、ダモクレスが一歩二歩、とキラに近づこうとして、足元のジョウロに躓く。
「わ…?!」