第19章 目指す道
そして満月に怯え、ぼろぼろになってやり過ごす。
そんな毎日を変えたのが、ホグワーツの入学許可証だった。
その紙切れ一枚が、どれほど輝いて見えたことか。
9と3/4番線が、ホグワーツ特急が、ホグワーツ城が、自分の目にどれだけ大きく見えたことか。
満月だけはリーマスを縛り、苦しませ続けたけれど。
あともう少しで卒業するこの場所だけれど、そのたった数ヶ月でさえ失いたくない。
今、バレてしまったらと思うと恐ろしい。
キラが人狼について調べているのだと確信したとき、戦慄が走ったのだ。
とはいえ、自分の先程の行動は浅はかだとしか言いようがない。
要らぬことをしてしまった、とリーマスは後悔に襲われた。
彼女は聡明そうだし、もしかしたら先ほどの接触で何か疑念を生んだかもしれない。
傷跡の残る手の甲を無意識にさする。
人狼は魔法生物という括りになるからか、傷跡は薬や魔法では治らないので、自然治癒を待つしかない。
そこも観察されていたら、と肝が冷える。
卒業後には"人狼"として、リーマスは薬の実験体になることが決まっている。
だから、せめてそれまでは"人間"で居たい。
(脱狼薬か…)
人狼被害者の会というコミュニティから回ってきた話では、脱狼薬を開発しようとしているとある研究者がいて、臨床試験を行いたいのでぜひ協力して欲しい、というものだった。
大変危険を伴うもので、劇薬を使用するらしい。
けれど、もしそれで脱狼薬が完成するのであれば、と数人が臨床試験への参加に手を挙げた。
リーマスもその中の一人であった。
場合によっては命を落とす可能性がある臨床試験だが、望みがあるのならば、賭けるしかない。
人狼であるがゆえ、定職につくことができないリーマスにとって、謝礼金が出るということも酷く魅力的だったこともある。
(…それだけ危険ということだろう)
肺の中の空気を全て吐き出して、リーマスは歩を進める速度を上げた。