第19章 目指す道
「……」
「……」
無言の時間が続く。
キラは今度こそため息をついた。
「――今日は、ずいぶん調子が良さそうですね」
セブルスの顔色が悪いのはいつものことだが、たしかこの人は毎月一週間ほど死にそうな顔をしているくらい、体が弱かったはず。
「え? うん、今日は…あ、うん、そうだね」
歯切れの悪い返事にキラは首を傾げるが、大して気にしなかった。
「……」
「……」
また無言が続く。
(私だってそこまで暇人じゃないんだけど…)
そろそろ寮に戻りたい。
そう思った頃だった。
「君は…スネイプから、何か聞いてる?」
「え?」
「その…僕のことを」
「…いえ? 何も」
何なんだ一体、と思い切り不審そうにリーマスを見つめると、あ、と小さな声が漏れた。
「その目…とても綺麗だね」
「…はぁ…」
「ごめんね。何も聞いてないならいいんだ。時間を取ってしまって悪かった」
リーマスがさっと立ち上がる。
「それじゃ」
そう言って、彼はキラに背を向けて歩き出した。
「え…何なの、あの人」
ぽかんとしてキラは彼を見送る。
『その目…とても綺麗だね……リリーに良く似てる…』
微かに聞こえた彼の呟きがキラの心に僅かな波風を立てた。
キラに背を向けて歩き出してすぐ。
リーマスは早鐘のように打つ心臓の辺りを手で押さえた。
(僕の勘違い? 墓穴を掘ったか? いや、でも――)
一人になりたくて、でも叫びの屋敷へと続く暴れ柳の近くへ行くのは嫌で。
そんなときにいつも来るのが、ホグワーツ城の北側。
水辺の方から冷たい風が吹くのが心地よくて、そこはリーマスだけのお気に入りの場所だった。
今日もその場所へ足を運べば、先客が居た。
薄桃色の小さな花びらがひらひらと踊るその中で、彼女は物憂げな表情で立っていた。
なんだか声を掛けるのが躊躇われて、リーマスはほんの数秒、キラに見入っていた。
その内、気づけば一歩、二歩と進んでいて。
踏んだ枯れ枝がパキリと音を立てたのだ。