第19章 目指す道
「それで…何の御用ですか? "スリザリンなんか"の私と一緒に居るところを見られたら、あの人たちがうるさいんじゃないんですか」
キラの言葉は刺々しい。
それでもリーマスは微笑みを崩さない。
「特に、用があるわけじゃなかったんだけど…その、こっちの方は人気が少ないから、僕もよく来るんだ。それで…今日は、君がいたから」
(つまり。僕の場所だからどっか行ってくれ、ってことね)
散らしていた桜を消して、キラは杖をローブの内側にしまいこむ。
「それは失礼しました。すぐに行きますからごゆっくり」
その場を立ち去ろうとするキラに、リーマスが慌てたように手を伸ばす。
「ちょっと待って」
がし、と腕をつかまれてキラは驚いてリーマスを見る。
「あ、ごめんね」
パッと腕を離される。
「……」
一体何なのだ、と訝しげな視線を送ればリーマスはまた困ったように頬を掻いて、とりあえず座らない?とベンチ代わりになっている横たわった大木を指差した。
「――前から、その…君と話してみたいと思ってたんだ」
そのセリフだけ聞けば、何だか恋愛漫画の一コマのようだった。
「…そうですか」
なんで、とは聞かなかった。
問いかけたら、自分から話を広げたことになる気がしたからだ。
「……」
「……」
話してみたいと言っていたわりに、リーマスは無言のままだ。
しきりに手を組み変えたり擦り合わせたりと、何やら緊張している模様。
(何なんだろう、この時間…)
大きなため息をつきたくなるのを我慢して、落ち着きなく動かしている彼の手を見る。
手の甲や時折覗く手首には複数の傷跡があった。
(…なんだろう?)
ほとんどの生徒は多少の傷ならハナハッカエキスや魔法で治してしまう。
それなのに、彼はそうしていないらしい。
(変なの…)
チラリ、とリーマスの横顔を見ればその頬にも傷は見受けられた。
顔の傷を治さないなんて、そんなことがあるだろうか。
有り得ない。マダムポンフリーが許さないはずだ。
保健室に行くと物凄い勢いで怒られるけれど、完治するまでは必ず治療を続けるし、もう平気だと言っても許してくれないのだから。