第19章 目指す道
四月に入って、桜が恋しくなる季節となった。
「オーキデウス」
温室では風がないし、中庭では人目につく。
静かに過ごしたくてたどり着いたのは人気のないホグワーツ城の北側で、キラは一人桜と戯れていた。
桜の花びらがひらひらと舞うのを見ながら、ぼーっと過ごす。
(別れの季節が春じゃないって変な感じ…)
セブルスたちが卒業するのは六月の終わり。
九月始まりだから仕方が無いのだが、どうにも違和感が拭えない。
(六月…蛍の季節だなぁ…)
祖父の家から少し離れたところには川が流れていて。
夜、雨が降った後にそこへ訪れると沢山の蛍が飛び交うのが見られた。
こちらで蛍といえば、羽の無いワームと呼ばれる虫のことを指すと知ったときは衝撃だった。
魔法薬学の授業で材料として並んでいたのを思い出すと、ちょっと背筋がぞわぞわする。
ただの虫だと思えば平気なのに、これが蛍だと言われると途端に気持ち悪くなってしまった。
もちろん、その薬は飲むと体内が光るという――何のために必要な薬かは全くわからないが――、想像した通りの効果だった。
(魔法で蛍を再現できたらいいのにな)
そんなことを考えていたときだった。
パキリ、と枝を踏みしめる音がしてキラはそちらに目を向けた。
「あ。…やぁ、えっと…Ms.ミズキ…だったかな?」
「…あなたは…」
見覚えのある人物に、キラは体ごと向き直る。
彼は、グリフィンドールの。
「僕は、リーマス・J・ルーピンと言うんだ」
くたびれたような雰囲気を漂わす彼をキラは警戒した。
「……何か?」
我ながら冷たい物言いだな、とキラは思った。
「あー。その。君が…僕を嫌っていることは知ってるよ」
だったらどうしてわざわざ話しかけてくるのか、キラには甚だ疑問であったが、訂正したいことが一つあった。
「…別に、貴方だけが嫌いなわけじゃありません。貴方たち全員嫌いです」
顎を少々突き出すような仕草でキラはその気持ちを表した。
「あはは…うん、そうだよね」
困ったような顔でリーマスが笑う。