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【HP】月下美人

第19章 目指す道


「先のことは…正直、何も考えてなかったです」
 キラは素直にそう言った。
「日本に帰るもんだと思ってたんですけど…よく考えたら、もうマグルの生活には戻れないのかな、って」
「そうなの?」
「ええ…生活というか…マグルの仕事をするのは難しいでしょうね」
 ふーん、と気のなさそうな相槌を返したかと思えば、ダモクレスはすぐにニッコリと歯を見せて笑った。
「な、なんですか?」
「だったら、やっぱり魔法薬学の研究でしょ!」
「えっ?!」
「キラだったらきっと良い研究者になると思うんだよねー。日本のイデンシってやつの考え方も中々興味深いしー」
 その言葉にキラはうっと呻いた。
 遺伝子の説明がどれだけ大変だったか。
 大体、自分にもそこまで知識があるわけではない。
 中学高校と通っていたら生物という科目があるわけだし、もっと突っ込んだところにも目を向けられるのだが。
 キラは内心焦りながら、にんまり笑うダモクレスに苦笑いを返すしかない。
(本読むだけで、何とかなるのかなぁ…)
「ブルーム家の跡継ぎが研究者、ってのも有りだしねー。俺としては、そうなってくれるのが一番助かるもんねー」
「か、考えておきます…」
「うん、よろしくっ! 論文とか書いたらねー…きっと、セブルスも読んでくれるよ」
「…へ?」
 不意にもたらされたダモクレスの落ち着いた声音に、キラは気の抜けたような顔で彼を見返した。

「セブルスは勉強家だからねー。きっと、卒業した後も魔法薬学の研究雑誌は目を通すよ」
「あ……」
 その研究雑誌はダモクレスが時折セブルスに誤字脱字をチェックしてもらっている論文の投稿先である。
 必ずしも掲載されるとは限らないが、革新的な内容であったり既存の概念を覆すようなものであればほぼ間違いなく載るという。
「キラの名前を見つけたら…きっと、凄く鼻が高いと思うなー」
「…スラグホーン教授より、ですか?」
「それは、目に見えてるからいいんだってー」

 二人してケラケラと笑いあう。
 もしここにセブルスが居たのならば、口の端を器用に歪めているだろうか。
 キラはそんな風に思った。

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