第19章 目指す道
このまま年齢を重ねたら、もっと早く感じるようになるのかな、月日だけが流れて、心が置いてけぼりにならないのだろうかとキラは漠然とした不安に駆られた。
「うーん…会えないこともないんじゃない?」
「え…?」
ダモクレスの言葉に、キラは驚いた。
「少なくとも、俺は脱狼薬完成まではキラに協力してもらいたいなー」
「で、でもどうやって…?」
「別にホグワーツは関係者以外立ち入り禁止ってわけじゃないしー。ま、卒業してからすぐってのは難しいけどね。院に慣れるまではバタバタするだろうしー」
「そう、なんですか」
キラはへぇ、と感嘆の声をあげるが、そのトーンは低い。
ダモクレスはその様子を見て穏やかな笑みを浮かべて言った。
「――セブルスは、遠くに行ってしまうね」
カチャン、と手元のカップとソーサーが音を立てる。
口内に残った冷めかけた紅茶をごくりと飲み下して、キラはダモクレスを見た。
「遠く、ですか」
「うん。遠く、だねー」
「やっぱり、そうですか」
「うん。やっぱり、そうだよ」
それがどういう意味なのか、わからないほど幼くは無い、と自分では思っている。
きっと、彼は向こうに行ってしまう。
(卒業って、こんな感じなんだ)
取り残される方の気持ちを経験したことがない。
だってそんなに仲の良い先輩なんて、小学校ではいなかった。
ただ、皆と同じ中学に行かないということが不安で仕方が無かったし、寂しかった。
「ねぇキラ、知ってる?」
「え?」
突然ダモクレスに聞かれて、何を?とキラは首を傾げる。
「スリザリンの生徒はほとんど家を継ぐから、就職先とか、進学とかってほとんどないんだよー」
ああ、そういえばそのようなことをルシウスが言ってたような…とキラはぼんやりした記憶からふんふん、と頷いた。
「俺はただ研究したいだけなんだけどさー。キラは…まだ二年生だけど、何かなりたいものってあるの? ブルームの家を継ぐとかー?」
「そう、ですね…」
いずれは自分に…とスカーレットは確かに口にしていたけれど、それが自分のなりたいものかと言われるとそうではない。