第18章 背伸び
思いのほか小さな声。
セブルスは少し言い過ぎただろうか、と一瞬思ったが再び口を開いた。
「本当に自分で得た知識、経験ならばその調合過程における危険性をもっと理解できたはずだ。他人に褒めてもらいたい、認めてもらいたい、という気持ちを…否定する気はないが」
自分もそう思うことは多々ある、とは言わなかった。
キラの姿は、セブルスにそっくりだ。
リリーに認められたいがために、必死で勉強して背伸びをしてきた。
それは今も変わらない。
彼女の意識をこちらに向けたいから、セブルスは優れた闇の魔法使いになりたいのだ。
「…ごめんなさい…」
良い気になっていた。
クラスメートに鍋の中を見せてあげてるんだ、という心があったことは事実。
そしてそれがアニーの怪我に繋がってしまった。
泣きそうになって、キラはまた上を向いて涙を呑み込んだ。
泣いたって、何の解決にもならないから。
目元を擦ってセブルスを見上げた。
ともすると睨みつけるような、潤んだ瞳。
セブルスはそんな彼女の様子に、そっと杖を持ち上げた。
「エピスキー」
ふわ、と暖かい風が頬を撫でたような気がしたと思えば、擦りすぎてピリピリとしていた痛みが消えた。
「あまり擦るな」
「あ…ありがとうございます…」
赤みが消えたかどうかを確認するセブルスの視線にどきりとする。
キラは泣きそうだったのを忘れて、彼の黒い瞳を見つめた。
初めて出会った日、鋭い目つきが怖くて震えてしまったことを思い出す。
日本人とは似ても似つかない彫りの深い顔立ちは、いつのまにか随分と見慣れた。
柔和な笑みを浮かべるいかにも優しそうなグラエムよりも、いつも不機嫌そうなセブルスがここにいる方が心が落ち着くことに気づいた。
たとえ自分の意地汚い部分を指摘されてショックを受けた後だとしても。
彼は、上辺の言葉を口にはしないと知っているからだ。
思ったことをキラにそのまま伝えてくれる。
裏側を考える必要なんてない。
肩肘を張ることも、必死で背伸びをすることも、しなくていいのだと思えた。
あまりにキラがセブルスをじっと見るので、彼はきゅっと眉間に皺を寄せる。