第18章 背伸び
「お前は悪くない、とでも言ってもらえると思ったのか」
「そんなこと…」
きゅ、と唇を噛むその様子にセブルスはフン、と鼻を鳴らす。
「これまで、他人に鍋を覗かれて一度でも注意したことがあるか」
「…ない、です」
「何故だ」
セブルスの言葉に、キラは右に左に視線を彷徨わせながら答える。
「皆が、見たがるから…」
「いや、違う」
「……?」
「見られたい、と思っているからだ」
一体何を言われるのか、と思ったキラは驚く。
「え…」
「見てもらいたいと思っている。そして褒められたい、と。だから止めなかったんだ。他人よりも優れた魔法薬を作ることができる自分を見せびらかしたい…そう思っているだろう」
キラの目が見開かれる。
「お、思ってな――」
「ないと言い切れるのか? スラグホーン教授に手放しで褒められることは勿論、クラスメートの賞賛の声に良い気になっていないと?」
セブルスの畳み掛けるような言葉にキラは何も言い返せない。
周りの反応に誇らしい気持ちになっていたことは否定できないからだ。
特にアニーとキャリーの二人は手放しでキラを褒めてくれたし、頼りにしてくれた。
それが心地よくて、鼻が高くて。
「お前が懸命に予習しているのは知っているが…それは何のためだ」
一番初めは、恥をかかないためだった。
スラグホーンの過度な期待に応え、祖母であるセシリー・ブルームの名に泥を塗らないため。
しかしそれはいつしか、自分の優越感のためのものになっていった。
「そして今のお前の知識は本当に自分自身の力で得たものだと、言えると思うか」
静かな声音で、セブルスはキラに問う。
その後ろに見える窓には、強い雨が打ち付けるようにパタパタと音を立てていた。
キラは冷えた指先を手の平の中に握りこむ。
ひんやりとした空気の中、キラの背中だけがカッカと熱い。
(私自身の力で…)
沢山、本を読んだ。
授業中には時間が許す限り、教科書通りの調合と予習したやり方の調合を行った。
セブルスとダモクレスに質問をして、時にはスラグホーンにも教えを乞うた。
それはつまり。
「――私の力じゃ、ないです…」