第18章 背伸び
「え…あ…」
「ヘンリンソンが探していたぞ」
いきなりのことに驚いてキラはぱちくりと目を見開いた。
しかしセブルスはそんなことはお構いなく、今度はグラエムの方に向き直る。
「グラエム・カドワース。責めるなら自分の妹にしておくことだ」
「何だと」
グラエムの声が堅く、鋭くなる。
「調合中の鍋を覗くこと、それ自体が間違っている。魔法薬学を軽く見ていたのだろう」
「そんなことは…」
「ないのならば、鍋を覗きこむなどという愚かな行為には及ばないだろう」
「……」
セブルスの至極全うな言葉に、グラエムは口を噤んだ。
「…確かに、君の言う通りだね」
はぁ、と嘆息してグラエムはチラリとキラに視線を向ける。
「あ、あの…」
「…保健室からあの子が出てきたら、またよろしく」
「は、はい…」
グラエムの背中が遠ざかっていく。
キラはなんとも言えない気持ちだった。
(どうして…私に怒らないの?)
なんてことをしてくれたんだと。
どうして防げなかったんだと、思い切り怒ってくれたら。
中途半端な気持ちが拭えなくて、自分が嫌になる。
アニーが鍋を覗いたことが一番よろしくないことだった、だから自分は悪くないんだ、とか。
男子生徒が先生の注意事項を守らなかったからで、自分は何も関与していないんだ、とか。
そう思いたくなる自分がいる。
俯いて立ち尽くすキラ。
セブルスは再び彼女の腕をグイッと強く引っ張った。
「キラ」
「はい…」
恐る恐る自分を見上げるキラの目と目元は随分赤くなっていた。
いつもならさらさらと指どおりの良さそうな黒髪も、ボサッとして艶がないように見えた。
セブルスはキラの揺れる瞳を見つめる。
じぃぃ、と探るような目つきにキラは動揺しているようだった。
「カドワースのことだが」
「…はい」
「自衛もできないのに鍋を覗くというのは愚考だ」
「で、でも私が――」
「だが」
何か言おうとするキラの言葉をセブルスは強く遮る。
「俺から見れば、お前が一番愚かだ」
「え……」
思ってもみなかった言葉に、頭を殴られたような衝撃を受けた顔でキラはセブルスを見上げた。