第18章 背伸び
カツカツと音を立てながらセブルスは足早に回廊を歩く。
階段が動くタイミングを見計らって足を踏み出して、目的の階へと近づいていった。
風が吹き込む廊下を進みたどり着いたのは、梟小屋。
木製の扉をゆっくりと開けて中に入る。
しかし、そこには誰もいなかった。
セブルスは迷わずキラの梟である翡翠を探した。
茶褐色に白斑の梟の足首を一匹一匹見るが、緑色の足環をしている梟はいなかった。
キラのペットであればその主を探せるかと思ったが当てが外れた。
梟たちを驚かせないようにそろりと扉を閉めて、セブルスは再び歩き出す。
キラと過ごした時間は長いようで短い。
たった二年だ。
ダモクレスに次いで長く時間を共にしていたことは間違いないけれど。
(どこに行った?)
靴音が心持ち早くなる。
外はいつの間にか土砂降りの雨になっていた。
回廊に入り込む雨は冷たく、ローブを少しずつ濡らしていく。
杖を取り出して防水呪文を掛けてからセブルスは階段を下りていった。
セブルスがキラを探し始める前。
一人になりたいと言ってあてども無く歩き始めたキラは、誰も来ない二階の女子トイレの便座に腰掛けていた。
そこは、"嘆きのマートル"と呼ばれる女子生徒のゴーストが現れるトイレで、彼女があまりにもめそめそ泣いて生きている生徒に八つ当たりするので、滅多に利用する者はいなかった。
「……」
「……」
メガネをかけたその女子生徒は乳白色をしていた。
ふわふわと浮いてキラをじぃっと眺めている。
何か言いたそうにしているけれど、何も言ってこないことを良いことにキラは黙ったまま目元を何度も拭った。
(私のせいでアニーが…)
ぽろぽろと涙を零すことはできない。
自分よりもアニーが辛い思いをしているのに、どうして自分が安易に泣けるというのか。
ぐうっと嗚咽が漏れるのを喉に力を込めて我慢する。
歯を食いしばって、斜め上を見て涙がにじみ出るのを必死でこらえる。
こらえきれない雫はすでに濡れた手の甲に何度も擦りつけた。