第18章 背伸び
それにつられて歩き始めた二人だが、視線は自然と背後の保健室へ向けられた。
マダムポンフリーは二人に一、二度手を振ったところですぐに中へ引っ込んでしまった。
そうしてスラグホーンにぐいぐいと引っ張られて着いた先は、魔法薬学教室へ続く地下への階段前だった。
『私は教室に戻るが…君達は一旦寮へお戻り』
髭を撫で付けながら、スラグホーンは優しい声音で諭すように言った。
『……』
『……はい』
キャリーはしっかりとスラグホーンの顔を見て頷いたが、キラの焦点は彼の丸いお腹辺りにぼんやりと当てられていた。
カッカッと硬い音を鳴らしてスラグホーンが階段を下りていく。
キラは地面に敷き詰められた石と石の間の隙間をなぞるように見つめていたかと思えば、一歩、二歩と歩き出した。
『キラ?』
『……ちょっと…外の空気、吸ってくるね』
『え、えぇ…』
ぼーっとしたキラの様子にキャリーは戸惑いながらも、一人になりたいのだろうかと考えた。
『じゃあ…私は部屋に戻るわ』
夕食の頃には戻ってくるだろう。
キャリーはそう思ってキラを送り出した。
しかし、いつも大広間へ向かう時間になってもキラは戻ってこなかった。
しばらく部屋で待っていたキャリーだったが、もしかしてもう大広間にいるのかもしれない…そう思ったがキラはいなかった。
ならば温室か?と思って、大広間にやってきたスプラウト教授にキラが温室に行っていないかと尋ねたが、それも外れだった。
「図書室と温室以外に行きそうな場所が思いつかなくて…」
キャリーは品の良い眉をハの字に下げた。
いつも隣にはキラかアニーがいるので、酷く心許なさそうにしている。
セブルスはそんな彼女を見下ろしながら、キラならどこへ行くだろうか、と考えた。
しかし確かに、図書室と温室以外で会うことなどないのでどこに行ったのかは見当もつかない。
「――あいつの分の夕食は確保しておけ」
「え」
キャリーがぱちくりと瞬きをする間に、セブルスはもうその黒い背中を見せていた。
ローブがひらりとはためくその様子を、後にキャリーは闇の王子のようだなどと騒ぎ立てるのである。