第18章 背伸び
キラとキャリーはぎゅっとお互いの手を握り合う。
恐ろしいくらいの叫び声がそれから二度ほど続いて、ピタリと止んだ。
『な、なに…』
『アニー…?』
突然訪れた静寂に二人は体を強張らせた。
嫌な想像が頭を駆け巡る。
まさか。
もしかして。
顔面を押さえて苦しむアニーの姿と先ほどの悲鳴では、悪いことしか思い浮かばない。
顔に痕が残るだけでは済まないのか。
もう二度と彼女に会えないなんて、そんなこと。
保健室の扉を叩く勇気が出ない。
二人してじっと扉を見つめる。
めったに来ることのない保健室であるからして、その扉が重たいかどうかはわからない。
けれど、今の二人にはその扉はひどく大きく、重そうで開けるにはかなりの力が必要なように思えた。
永遠とも思える静かな時を打ち破ったのは、がちゃり、と急に扉が開く音だった。
『――MS.ミズキ、Ms.ヘンリンソン』
『あ……』
出てきたのはスラグホーンだった。
疲れたような表情で、ご自慢の髭がやや下向いている。
大きなお腹を撫でながら、落ち着いた声で二人に話しかける。
『Ms.カドワースは無事だよ。ただし、今日はもう会えないから、二人とも部屋にお帰り』
『え…』
どういうことか、と尋ねようとすればスラグホーンの背後からにゅっとマダムポンフリーが顔を出した。
『Ms.カドワースの治療は多少痛みを伴うものでした。疲れて眠っているので、しばらく面会は禁止です』
『しばらく…』
『それってどのくらいですか?』
キャリーが身を乗り出す。
『しばらくです。治療が終わるまでは面会できません』
『そんなに酷いんですか…?』
キラの言葉にマダムポンフリーは曖昧に頷いた。
『骨折と比べれば酷いかもしれませんが、骨が無くなるよりはマシではないかと思いますよ』
『……』
酷さの程度が理解できず、キャリーは口をつぐんだ。
キラも黙ったまま、マダムポンフリーの後ろに見える白いカーテンを見つめる。
『さぁさぁ、あなたたちはもう戻りなさい』
『心配しなくていい。私の魔法薬があればたちまち治るよ』
スラグホーンが左右の手でキラとキャリーの肩を抱いて歩き始めた。