第18章 背伸び
その隣の机で調合をしていたアニーがキラたちの鍋を覗いた瞬間、直前に入れた亀の甲羅の欠片がバチバチ、と爆ぜた。
キラが危ない!と叫ぶ間もなかった。
『あ、あ…ああああぁぁぁ!!』
絶叫が教室内に響く。
跳ねた薬液がアニーの顔にかかったのだ。
『どうした?!』
顔面を両手で押さえるアニーにスラグホーンが走り寄る。
『授業は中止だ! 調合を止めて火を消して片付けておくように!!』
『アニー…!!』
『ヘンリンソン、落ち着きなさい。カドワースは私が保健室に連れて行く。待っていなさい』
返事も待たずにスラグホーンはアニーを抱えて教室を出ていった。
残された生徒は呆気に取られながら、中途半端になった魔法薬の調合を止めて片付けを始める。
『――キラ、貴女は大丈夫だった?』
キャリーは突然のことに数十秒棒立ちになっていたが、ようやく我に返りキラに問いかける。
しかし、キラは鍋をじっと見つめたまま動かない。
ペアを組んでいた男子生徒は罰が悪いのか片付けもしないまま居なくなっていた。
『キラ…?』
火が消えたことで鍋の中の魔法薬はドロドロとした黄土色のゼリーのように変わり果てている。
成功すれば綺麗なレモンイエローになるはずだったそれ。
キラの顔から表情は消えていた。
『キラ』
キャリーは思わずキラの腕を掴んだ。
すると、はっとしてその目がキャリーを捉えた。
『キャリー…アニーは…』
『スラグホーン教授が保健室に連れて行ってくださったわ。私たちも保健室に行きましょう?』
キラはそっと杖を手にして、鍋に向かって呪文を唱えた。
『エバネスコ』
鍋の中身が消えてなくなった。
その呪文はまだ習わないもので、キャリーは一瞬目を見張る。
しかしキラの様子に口をつぐみ、二人手を繋いで教室を後にした。
もう治療は終わったのだろうかと、祈るように保健室の前までやってきた二人。
そんな彼女たちの耳をつんざく悲鳴が扉一枚隔てた向こうから聞こえてきた。
『いやぁぁ!!熱い!あああつぃぃぃ!!!』