第18章 背伸び
あんなに血統に拘るのに?!とちょっと曲がったツッコミを入れたくなる。
「イデンシって、何?」
ダモクレスが興味津々、と言った眼でキラを見る。
(うわぁぁ…どうしよう、言ってみたもののちゃんと知らないよ…!!)
中学か高校で習うであろう生物学の知識。
小学校を卒業しただけでホグワーツに来たキラには、正しく説明できるだけの学がない。
ただ、いつか何かのテレビ番組で見ただけ。
それから植物の交配について祖父から聞いただけ。
(知ったかぶりしたつもりじゃないけど…言わなきゃ良かった!)
「えーっとその…遺伝、っていうのはわかりますよね?」
「ああ」
こくりとセブルスが頷くのを確認して、キラは言葉を選びながら続けた。
「その、遺伝が…たとえば、黒い髪で黒い瞳、鼻の形がこんな形だよ、って言う情報がぎゅっと詰まったものを遺伝子って言うんですけど…」
ちらり、と二人を見れば真顔でこちらをじぃっと見ている。
これは…理解できていなさそうだ。
「――あの、英語で説明するのがちょっと難しくて…調べてからでもいいでしょうか?」
「…そうだな」
「うん、おねがーい」
「で、ですね。とりあえずその遺伝子ってやつが、月の満ち欠けのサイクルによって体を変化させるような命令を出すんだと思うんです」
「へぇ?」
「だからその遺伝子に作用する薬が作れたら……なぁ……って…」
自分で言っていて、そのことの難しさに気づく。
遺伝子に作用って、もう人知を超えているような。
大体、遺伝子を知りもしない人達に素人の自分がちょっと調べた内容を説明したところでどうにかなるのだろうか。
というか。
人狼に噛まれてしまった人間の遺伝子は変異しているだろうと思っていたが、もしかして変異していなかったらどうしよう。
「うん…あの……忘れてもらってもいいですか…?」
キラの言葉を一言一句聞き漏らすまいとしていた二人の前に、キラの心は折れそうだ。
「何を言っているんだ」
「そうだよー。別に間違ってたっていいんだしー」
「で、でも…」
「いいからいいから。思ったこと言ってみて?」