第18章 背伸び
その程度の毒性を残したい。
マウスで上手くいったとしても、人狼ではどうなるかは当然わからないのだが、体重の比率から割り出すしか手は無い。
「後は…体の変化を食い止める方法だな」
「そうだねー」
「満月が近づくに従って人狼は体に不調が出ると聞く」
「…へぇ? よく知ってるね?」
「…本を読めばわかることだろう」
セブルスは一瞬の間を置いてそう返した。
満月が近づくたびにあの男を目で追うようになってしまったから、当然のように言ってしまった。
本には記述がなかったかもしれない。
ダモクレスは気づいているのかいないのか、チラりとセブルスを見るだけに留めた。
「あ、そー。それで?」
「つまり、満月になる前から体に異変が起こるということだ」
「ってことはー」
「ということは、薬は前もって飲んでおかなくてはならないということですね?」
キラは前のめりになってダモクレスの声を遮った。
「ああ、その通りだ」
「俺が言おうと思ってたのにー」
「半月を超えた辺りから服薬は必要になるんじゃないか」
「んん…でもそれだと、毒の濃度をちょっとずつ変えなくちゃならないんじゃない?」
「そうなるだろうな」
「うわぁ」
途方もない話だ、とキラが眉を潜めるも、ダモクレスはくくく、と笑い出す。
「わぉ……面白くなってきたー。いいね、難しいとそれだけ燃えるよー」
そんな様子を、キラは「まさに研究者だなぁ…」と見ていた折。
急に頭に疑問が浮かんだ。
「あの…ちょっと質問いいですか?」
おずおずと手を挙げて、ダモクレスとセブルスの顔を伺う。
「どうしたのー?」
「あの、トリカブトの毒は人狼を弱らせるために使うんですよね?」
「んん、まぁそういうことになるね」
ダモクレスは毒によって肉体的な動きを封じよう、という方向を取っていた。
人狼の凶暴性が一番の問題となっているからだ。
「でも…それだったら、別にトリカブトじゃなくてもいいのでは…?」
キラの言葉に二人は顔を見合わせた。
そして、セブルスが最初に口を開く。
「――確かに、そうだな」
「うん…トリカブトじゃなくてもいいね…」
オゥ!と叫んでダモクレスは頭を抱えてしまった。