第18章 背伸び
三月になった。
日本では梅の見頃を迎え、早咲きの桜が準備をしだす頃である。
イギリスも季節の移ろいはほぼ日本と同じ。
まだまだ三月は寒い。
三人は着込んできたローブを脱ぎ捨てて、温室でぬくぬくと過ごしていた。
キラとダモクレスはアールグレイティー。
セブルスは緑茶をそれぞれ口にする。
キラであれば両手で持たなくてはならない大きめの湯呑みは、手の大きいセブルスにはちょうど良かったらしい。
誕生日プレゼントとして渡してから、緑茶だけではなくたまに紅茶を淹れているのを見かける。
カップ以外を使うなど邪道だ、と言われるかと思ったがセブルスは実用性を重視したらしい。
ティーカップよりも大容量で、器自体が分厚いため冷めにくい。
匂いを楽しむのであればティーカップが一番良いのだが、そこは目を瞑っているようだった。
結局、キラはうだうだと考えたりすることをスパッとやめた。
セブルスのこの先のことは彼自身が決めることだし、大体自分に何の関係があるというのだろうか。
彼でなくても誰かに殺されるかもしれない、というのは他のマグルやハーフブラッドと何ら変わり映えのしない状況だと気づいたのだ。
例え彼が闇の陣営とも呼ばれる場所に身を置いたとしても、彼自身が悪人だとは思えない。
そこは変わらない。
そう気づけば、リリーやジェームズの気持ちは分からないではないけれど、無駄な心配、無駄な悩みだと思えたのだった。
「うーん…」
こめかみをぐりぐりと指で押さえながら、ダモクレスが唸る。
「ちょっと熱をかけすぎたんじゃないか」
実験用マウスの動きを見つつセブルスはそう言った。
「毒の効力がゼロだ」
「だよねー…」
今二人は、減毒処理をしたトリカブトの根から抽出した液体を使ってマウスの動きを観察しているところであった。
マウスを使っての実験を始めてからもう二ヶ月経っているのだが、毒性を弱くすることにダモクレスはかなり手こずっていた。
マウスが死なないように、かといって動き回るようではいけない。
体の自由が効かなくなるが、心臓の動きや呼吸には影響がでない。